
vol.336
INTERVIEW
人気コメディー俳優アダム・サンドラー×個性派ドン・チードル
極上のアンサンブルが生み出す“9.11後の絆”
『再会の街で』
監督 マイク・バインダー
9.11後のニューヨークを舞台にした、ヒューマンドラマの傑作が誕生した。『50回目のファースト・キス』のアダム・サンドラーと、『ホテル・ルワンダ』のドン・チードルという個性派男優2人が旧友同士を演じる、感動のバディ・ムービー『再会の街で』。あの悲劇から5年以上経ち、一見以前の日常を取り戻したかのようなニューヨーク。もはや声高に叫ぶことのできない人生の痛みを、温かなまなざしで見つめたマイク・バインダー監督に、本作の見どころを語ってもらった。
見終わった後、大切な人に電話したくなると思うよ(笑)。
あの悲劇から5年以上経ち、一見以前の日常を取り戻したかのようなニューヨーク。物語の主役は、かつてルームメイトだった2人の男だ。一見何不自由ない人生を歩んでいるかに見える歯科医アランと、ある悲劇を経験し現実を拒否して生きるようになったチャーリー。再会した2人は、離れていた年月が消えたかのように再びともに遊び始める。まるで、現実を忘れ大学時代の日々を取り戻そうとするように…。“9.11”の喪失感をエピソードに用いながらも、本作は決して“悲劇”というジャンルにはまらない。
「もともと私のバックグラウンドはスタンダップコメディーですからね(笑)。だから、深くてドラマティックな映画にはしたいけど、重くて暗いものにはならないだろうとは思っていました。この映画の設定が9.11の5〜6年後で、直後ではないということも理由の一つかもしれません。どんな悲劇でも、時間が経つと緩和されるものですから」
しかし監督がこの映画を撮ろうとしたきっかけは“癒えない痛み”に気づいたときだったという。
「実は私は、9.11のときにニューヨークにいたんです。実際は生粋のニューヨーカーではなくて、住んでいるのはL.A.だし、出身はデトロイトなんですけどね。でもアメリカ中、世界中の人々と同じように、大きな影響を受けました。そのころ、道を歩いていると一瞬にして人生が変わってしまった人に大勢出会いましたよ。それから2、3年後、家族と一緒に再びニューヨークを歩いたときのことです。自分の中で“あの日がずっと続いている人たちが、悲劇が癒えない人たちが今もいるはずだ”という思いが沸きあがってきたのです」
その癒えない傷のせいで現実を拒否して生きるようになったチャーリー。しかし彼と再会したアランもまた、順風満帆な人生を送っているように見えて、生きることの意味を見失いつつある男だ。
「男同士の友情についても描いてみたいと思っていて、その2つがうまくフィットしたというわけなんです」
本作でまず驚かされるのが、観客を爆笑の渦に巻き込んできたコメディー俳優アダム・サンドラーが、チャーリー役を見事に演じていること。この意外なキャスティングは最初から企画されていた?
「いや、それが違うんです。実は、シナリオを描いているときには、チャーリーの役にトム・クルーズを考えていたんですよ。そのころ、アランの役にと考えていたスペイン人俳優ハビエル・バデムが『パンチドランク・ラブ』を見て、チャーリー役はアダムがいいのではと、アイデアを出してくれた。といってもハビエルはアダムをシリアス・アクターだと思いこんでそう言っていたんですけどね(笑)。私は“それはコメディー俳優のアダム・サンドラーじゃないか”と言ったんですけど、よくよく考えてみたらそれもいいかもと思えてきて、すぐ連絡しましたよ」
多くのコメディアン出身俳優は(監督も含めて…)器用で頭がいいと聞くが。
「そうそう、もちろんです(笑)。ドンのほうは非常に頭のいい人で、すごく好奇心が旺盛。何でもどんな細かいことでも知りたがる。アダムのほうはもっと感に頼るというか本能的なタイプですね」
2人が演じたチャーリーとアランは、深くから信頼しあう友人同士そのものだ。
「ええ、2人ともすごく仲が良くて、今では本当の友達同士になりましたよ。私は、年に1回家の庭でバーベキューパーティーを開いているんですが、撮影に入る前に、そこに2人を招待したんですよ。そうしたら30分もしないうちに一緒にふざけあって大笑いしていて“これはすごく仲が良くなるな”って思いましたね。だからニューヨークでリハーサルが始まったとき、とにかく2人で一緒につるむ時間を多くするように言ったんです。食事に行けとか、バスケでもしろとか(笑)」
コメディー出身の監督とアダム、カンのいいチードルが揃っているだけあって、劇中には思わず噴き出す爆笑シーンも。
「私が自ら演じている弁護士役は観客に笑いを提供する役どころ。実はけっこう出番があったのですが、多すぎるとこの映画に合わないというのでだいぶカットされてしまいました。それと、2人が音楽部屋で作った曲を歌うシーンも。実は彼らは本当に曲を作ったんです。2人は本当にミュージシャンでもあるから、あんまり面白くてよくできているので、カットせざるを得なかったんですよ。よく考えたらチャーリーとアランは歯医者なんだから、そこまでできないだろ!ってことで(笑)」
楽しい過去が蘇ったことで、再びいまを生きる力に気づいた、2人の男たち。痛みや不安が消えることがなくても、大切な存在が温かい光を投げかけてくれる。監督は笑顔でこう締めくくった。
「見終わった後、きっと家族に電話したくなりますよ(笑)。僕の妻も子供も両親も、この映画のメッセージがよく伝わったと、感動してくれました。これまでの作品ではたまに、まあまあだねなんて言われてたんだけど(笑)」
(本紙・秋吉布由子)