
vol.340
『野田版 研辰の討たれ』がシネマ歌舞伎に
中村勘三郎
平成17年からスタートし、大好評を博している『シネマ歌舞伎』。歌舞伎を映画館で見せるという新しい取り組みは、新しい形のエンターテインメントとして多くの来場者を迎えている。今月12日から満を持して公開されるのは、中村勘三郎と野田秀樹が歌舞伎でタッグを組んだ記念すべき第1弾作品『野田版 研辰の討たれ』。舞台で大絶賛を浴びた伝説の作品が、シネマ歌舞伎としてよみがえる。
読んだ瞬間、これは当たると思った。
僕らは本当に幸せな出会いをしましたね
「野田秀樹の芝居ってのは動きがすごいから、年を取ったらそうはできない。“これじゃ夢の永眠者になる”って笑ったことがあったけど、僕と野田は同じ52歳で、それを今やれて、劇場の大きなスクリーンでドンと観られるものとして残せるっていうのは、怖いような、うれしいようなね。まあ、舞台でもない、映画でもない、新しい試みとしてとらえてもらえればいい。どっちつかずじゃなく、いいものができたと思ってるしね。しかも舞台より安く観られるでしょ。それでまた舞台も観たいと思ってもらえたら、こんなにいいことはないですよ」
歌舞伎座の楽屋。上演前のわずかの時間にインタビューにこたえてくれた勘三郎は、「みなさん足を崩して…。正座してるとしびれて大変なことになっちゃうから」と、率先してなごやかな雰囲気を作り出してくれる。歌舞伎役者としてこの国の宝でありながら、常に新しいことを模索する挑戦者。そんな勘三郎と野田秀樹による『野田版 研辰の討たれ』は、今から約7年前に始まった。
「僕はもともと彼の芝居は歌舞伎に合うと思っていたし、彼もコクーン歌舞伎を観て“おもしろい”と言ってくれた。そういうつながりで、じゃあ何をやるかってことで、歌舞伎としてはもともとあったこの作品を持っていったら、おもしろいと。それを彼が書き換えて生まれたのが『野田版 研辰の討たれ』なんですよ。とにかく初めて台本を読んだ日のことは忘れもしないね。その前日にコクーンでいい作品をやれて、手ごたえがあって、うれしくて朝まで飲んだんだよね。翌日起きられないくらい。そうしたら朝に野田から第1稿の宅急便が届いた。僕は寝ぼけまなこで二日酔いで、今は読めないと思いながら開いたら、もう酔いも覚めるぐらいおもしろかった。幸せだと思ったよね。いい仕事をした翌日に、次の仕事の台本がおもしろいってのは役者にとって吉報だから。これはいけるって、読んだ瞬間に当たると思った」
しかし挑戦者にとってはそれからも紆余曲折。主人公である研屋あがりの辰次の着物が迷彩柄だったりと、伝統を重んじるスタッフとの間でさまざまに交渉を重ねることになった。
「『暫』の派手な衣装と迷彩柄を並べたら、どっちがどうとかないでしょうって。それで納得してもらったら、みなさんプロだからあとは素晴らしい仕事をしてくれましたよ。最後の場面ではオペラのもの悲しい曲を弾いてもらったりしたけど、最終的には喜んでやっていただいた。稽古のときも、野田は歌舞伎役者にあまり詳しくないから、殺陣を組ませる場面でどう指示したらいいか名前が分からない。“すいません血液型B型の人同士が組んでください”なんて言ったら、ちょうどおじいさん同士が組になって、辰次がおじいさんに声をかける芝居にピタっとはまったりとか、神が降りてきたみたいな瞬間がずいぶんありましたね」
そして『野田版 研辰の討たれ』は、平成17年5月の十八代目中村勘三郎襲名披露狂言として再演。この演目への思いがよく分かる出来事だった。
「何か新しいジャンルを作ろうと思ったわけじゃなかったけど、野田秀樹とやったことで、いろんな作家さんが歌舞伎のほうを向いてくれたことは確かですよ。蜷川さんもそうだし、渡辺えりもそうだし、まだまだいろんな方たちと計画があるから、『研辰』はひとつのエポックメイキングな作品ではあったね。そういう意味でも僕にとって特別な作品だし、それが映画になるってことは、やっぱりうれしいですよ」
野田とは、次回作の話し合いを重ねている最中。
「運と縁だよね。同じ時代に生まれて、同士だし、同級生だし。東大と國學院の違いはあるけどね(笑)。だから野田とは、本当に幸せな出会いをしたと思ってますね」
(取材・文/幸野敦子)
シネマ歌舞伎『野田版 研辰の討たれ』
作:木村錦花/脚色:平田兼三郎/脚本・演出:野田秀樹
出演:中村勘三郎、中村福助、中村橋之助、市川染五郎、中村獅童、中村勘太郎、中村七之助、中村源左衛門、片岡亀蔵、坂東彌十郎、中村扇雀、坂東三津五郎 他
1月12日(土)〜2月1日(金)東劇ほかにてロードショー公開
http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki
|