
vol.345
THE POLICE 再結成ツアーを追う!
「音楽で一番大切なことは『驚き』だと思う」とスティングはインタビューで語っていた。昨年のグラミー賞授賞式での驚きの再結成から始まったポリスの世界ツアー。NY・マジソンスクエアガーデンでのライブ、インタビュー、そして東京公演と、ロックの巨人の足跡を追った。
2007年11月2日 ニューヨーク
東京より一足早く冬が訪れたニューヨーク、マンハッタン。凍るような寒さの中、マジソンスクエアガーデンの周囲だけは人の熱気が渦巻いていた。もうじき始まるポリスのライブを前に、グッズ売り場には人だかりができている。一昨年までは予想すらできなかったポリスの再結成。その事実を前にして、ファンは落ち着いてはいられない。「ハーイ!」と声をかけ合いハグする友人たち、腕をからめ合う恋人たち、冬なのに日焼けした肩を露出したマダムたち、前座を務めたスティングの息子のバンド、フィクションプレインの演奏からじっと耳を傾ける根っからの音楽ファンまで、人々の期待を飲み込み、会場の熱気は高まっていく。場内の暗転と同時に、沸き上がる嬌声。『孤独のメッセージ』で始まったライブは、ヒット曲の連続だ。「ハーイ! ニューヨーク!」。スティングの声に観客は歓声で応え、「僕がYeahと歌ったら、みなさんもYeahと続いて!」と語りかけると、気持ちのいいコール&レスポンスが巻き起こる。
年齢を積み重ねても、伸びのあるスティングの声は高々と響き渡り、セクシーなヒップラインも健在。スチュワート・コープランドは、叩いては投げ、叩いては投げと何本ものドラムスティックを客席にプレゼントしながら、ドラからチャイムまで使い分ける独特のパーカッションも披露した。そしてシャイな横顔を見せるアンディ・サマーズもエッジの効いたギタ−プレイを聴かせるなど、3人は円熟した美しいステージを繰り広げ、ニューヨークはその夜に酔いしれた。ポリスが出現するまで、ポリスのような音楽はロックには存在しなかった。ロックでありながら、レゲエやさまざまなワールドミュージック的要素を取り入れた独自のグルーブで、彼らは鮮やかに一時代を築いた。しかし観客にとって大切なのは、ポリスがいかにすごいバンドだったかではなく、今日がいかに楽しいかだ。ヒット曲の演奏が続く会場では、あちこちで恋人同士がキスを始めた。『ロクサーヌ』では会場が大合唱。アンコールで『見つめていたい』が始まると、カップルのキス度がぐっとあがる。愛の歌には愛の表現でその時を楽しむ。世界のエンターテインメイトを知り尽くしたニューヨーカーが集った夜、拍手はなかなか鳴り止まなかった。
数時間前のバックステージ
「音楽で一番重要なことは、“驚き”だと思ったからね」。ライブが始まる数時間前、マジソンスクエアガーデンの控室で行われたインタビューで、スティングは再結成の理由について答えてくれた。「次に何をしようかと考えていた時、今、皆を最も驚かすことができるのは、ポリスの再結成ツアーじゃないか? と思いついたんだ。まず、僕のマネジャーに話したところ、椅子から転げ落ちるくらい驚き、喜んでいた。その次にアンディとスチュワートに話したら、彼らもビックリしてたね。僕は再結成を長年拒否してきたから最初は信じてくれなかったんだ(笑)」。しかし一旦決まれば動きは早い。その時の気持ちをコープランドは、「以前はポリスの曲がラジオやクラブで流れても他人事だったのに、改めて自分が演奏することになると、突然もの凄く身近なものへと一変した。ジワジワと興奮してきた僕は叫びながら部屋中を駆け回るようになったよ」と回想する。彼らの言葉を聞くと、その夜のステージが大人の余裕を感じさせるシンプルかつエレガントなものであった理由もよく分かった。アンディは「人間はそう簡単には変わらないけど、ミュージシャンやアーティストは月日とともに上達し、ワインのように熟していくものだと思う。スティングもスチュワートもミュージシャンとして成長したと感じている」と語り、コープランドは「現在の僕らは昔より賢明で、禅の世界の如く落ち着いた」と話す。「以前はお互いをコテンパンに叩きのめした後にキれてその場から立ち去ってたけど、今はお互いをコテンパンに叩きのめした後メンバー間でたくさんの抱擁とキスを交わすんだよ(笑)」。そしてスティングも、「3人とも今のほうがずっと若い。精神面、細胞レベルの両面で若返ったと感じてるし、賢くもなった。昔の僕は『老いた青年』だったけど、今や『若々しい老人』だね(笑)。昔より若く、賢く、これが僕らの現在のモットーなんだ」と、笑いを交え答えてくれた。そしてこの再結成は、スティングが「正しいタイミングだった」と言うように、発表と同時にチケットは各所でソールド・アウト。2007年最大のツアーとして世界が受け入れるものとなったのだ。
2008年2月13日 東京
そして先週、彼らは27年ぶりの来日公演で東京ドームのステージに立っていた。ドームの利点である広い空間には巨大なスクリーンが設置され、よりショーアップされた映像とのコラボが美しい。“若返った”3人の動きもしなやかだ。インタビュ−でコープランドは、「ポリスの楽曲はリスナーたちの20年間の思い出と共にある。結婚やガールフレンドとの出会いがあったかもしれない。再結成は、皆の想い出深い楽曲を演奏するという、エモーショナルな体験が目的なのさ」と語っていたが、東京の夜ではまさにそのことを実感した。『Can't stand losing you』『ロクサーヌ』と続く鉄壁のフィナーレで、盛り上がりは最高潮に達する。キスの光景こそ見かけなかったが、アンコールでド−ムに響き渡った名曲『見つめていたい』のこの日のプレイは感動的だった。スティングとコープランドがステージを去っても、アンディはひとり残って手を振り続けた。そして鳴り止まない歓声に、“こんなに盛り上がったら帰れないだろう。戻ってこいよ!”と、ステージ下に消えたふたりを誘って見せた。それが決められた演出だったとしても、スティングが「日本でのライブはいつも特別」と話していた通り、ポリスと観客との“再結成”は最高の一夜となった。コープランドは語っていた。「僕の視点では、右手にスティングの後ろ姿、左手にアンディの後ろ姿が見えるだけ。でも僕は最高だと思ったよ。夢を遥かに越えるようなとんでもない出来事となったんだ」