
vol.346
Jリーグ開幕直前INTERVIEW
フロンターレという「誇り」。
川崎フロンターレ
中村憲剛
「クラブに関わってくれている人たちの思いは、試合の中にも凝縮されているんです」
中村憲剛の2008年は、多忙の中でスタートした。わずかなオフを終えると、すぐさま代表合宿に突入。岡田ジャパンの初陣となった親善試合2試合を経て、雪降る埼玉スタジアムでW杯アジア予選を戦った。その後は休息もそこそこに、宮崎・綾町で行われた川崎フロンターレのキャンプに合流し、滞在わずか3日間。限られた時間の中でJリーグ開幕へ向けたコミュニケーションを高めると、今度は東アジア選手権のため中国へ渡った。
まさに一流プレイヤーの宿命といえるハードスケジュールだが、中村に疲労の色はない。穏やかに語る表情からは、“サッカー漬け”の毎日を送る充実感が漂っていた。
「サッカーができればいいんですよ。選手はみんなそうだと思いますけど、僕も軽く“サッカー馬鹿”ですから」
昨年は中村にとって飛躍、そして試練の1年だった。長丁場のJリーグを戦いながら、7月のアジア杯に全試合出場。そしてクラブ初の国際大会となったACLでは、アジアの強豪との戦いでアウエーの洗礼も受けた。
「タフな1年をケガなく過ごせたことが最大の収穫でした。コンディショニングの面でも、日々の生活をどう過ごすかという目安ができたと思います」
フロンターレは関塚体制5年目に入り、文字通り勝負の年を迎える。開幕までにできることは限られているが、中村は「不安より期待のほうが大きい」と、悲願のJ1制覇へ向けた戦いが始まる日を心待ちにしている。
「細かい部分でのコミュニケーションをしっかり詰めていけば、特に問題はないと思います。日程的にも今年はJリーグに集中できるし、とにかく最初から一試合一試合を大事に戦っていきたいです」
開幕戦の相手は、今季J1に復帰した東京ヴェルディ。フッキをめぐる“因縁”もある好カードだけに、初戦から熱のこもったゲームになる。
「自分たちが昇格した年は、J1を経験した選手がほとんどいなかったから慣れるまでに時間がかかりました。けれどヴェルディの場合は経験のある選手ばかりなので、フロンターレのような大変さはないと思います。去年から補強もしているし、もともとヴェルディは力のあるチーム。余裕はまったくないですよ」
「年々研究されてきている」と他クラブのマークを警戒する中村だが、それ以上にフロンターレも進化を遂げている。FWフッキがヴェルディから復帰し、MFには山岸が新加入。昨季リーグ2位の得点(66得点)を挙げた攻撃陣は厚みを増し、他クラブがうらやむほどの破壊力を持つに至った。
「フッキは以前よりも日本語が分かるようになっていましたね。やはりコミュニケーションが取れないと厳しい部分があるので、日本語を少しでも理解できるようになったことは大きいです。山岸に関してはサッカー選手としての能力は高いですし、性格もいいからすぐフロンターレになじむと思います。彼には代表合宿の時から、サッカー的なところからチームの雰囲気まで、いろいろなことを話していますよ」
中央大学卒業後の2003年以来、フロンターレひと筋。クラブの魅力は「全部」と言い切るだけあって、その愛着は人一倍だ。
「サポーターもいいし、スタッフもいいし、もちろんチームメイトもいい。どちらかといえばチームに拾ってもらった中で(テスト生からフロンターレに入団)、不自由なくやらせてもらって、ここまで大きくしてくれた。僕には文句のつけようがないですよ。自分がここまで来られたのもフロンターレのおかげですし、ここでプレーすること自体に誇りを感じています」
中村の「誇り」は、フロンターレが貫いてきた攻撃サッカーに関してもいえるだろう。堅い守備を前提にした“勝てるサッカー”への志向が高まる中、自分たちが積み上げてきたものを変えるつもりはない。中盤以下はガッチリ守りを固めて、攻撃はジュニーニョ、フッキらFWに任せれば勝つ確率は上がるかもしれない…。そんな愚問は当然のように否定する。
「面白いサッカーとは思えないですよね。それではフロンターレのサッカーを応援してきてくれた人にも『今まで何だったの?』と思われてしまう。やっぱり、見る人が何の感情も抱かないサッカーはしたくないですよ。1年に何回かはそういう形になる試合もあるかもしれないですけど、基本的には今まで通り、アグレッシブにゴールへ向かうサッカーを続けていきたいです」
卓越した戦術眼をベースにした意外性のあるパスや大胆な攻撃参加、そして豪快なミドルシュート。中村はプレイヤーとしても、“フロンターレの申し子”というべき個性的なプレーでサポーターを魅了している。
「見ているお客さんが『コイツ、何やってるんだろう』と思うような選手にはなりたいとずっと思っているんです。試合の中で『エッ、あそこに出すんだ』って驚くような。そういう選手ってやっぱり見ていて楽しいですし、特徴のない選手にはなりたくないですよね」
個性的なプレーをするために、努力は欠かさない。ひとつずつ実績を積み上げてきた中村の言葉は、おそらく本人が思っている以上に説得力がある。
「いくら練習してもミスするんだから、とにかく練習しないとダメです。課題? 全部です(苦笑)。やってもやっても追いつかない。だけど、それをやるんです。うまくなりたいという気持ちを持って練習していれば何とかなるんじゃないかと思っているし、今までは実際に何とかなってきている。このスタンスは、これからもずっと続けていきたいですね」
オシムジャパン発足以降、日本代表メンバーとしても急速に存在感を高めている。それでも彼が「チームありき」の姿勢を変えることはない。
「自分が頑張ることでフロンターレをアピールすることにもなるし、代表に招集されたら全力でプレーするだけですね。もちろん外されない選手ではありたいと思っていますけど、自分がメンバーとして残るには、これから先もチームでしっかりやっていくことが重要です」
J1は3月9日から、全34節の激闘が始まる。優勝争いは混戦模様で、今シーズンも数々のドラマが生まれることになるだろう。そんな中でも、クラブとサポーターが一体となってJ1優勝候補にまでたどり着いたフロンターレの軌跡には、サッカーになじみの薄い人にも伝わる「物語」がある。
「クラブに関わってくれている人たちの愛情や思いは、試合の中にも凝縮されているはずです。フロンターレは個々の選手の技量やアイデアといった部分が面白いですし、単純にゴールが多いのも見どころです。等々力は東京から近いので、このインタビューで興味を持ってくれた人は、ぜひ一度フロンターレのサッカーを見に来てください」
2004年のJ2優勝から4年。川崎フロンターレは驚くべきスピードでJリーグ屈指の強豪になった。「中村憲剛」という男に集まる注目も、年を追うごとに高まっている。しかし目まぐるしい変化の中でも、中村はまっすぐ「頂点」だけを見つめている。
(文/本紙・小池龍之)
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