今週のTOKYO HEADLINE
vol.349
(2008.03/17-03/23)
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写真:加藤大毅
INTERVIEW vol.349

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』

ウォン・カーウァイ

「最後のキスには意味がある。
手の動きが、ふたりの変化を物語るキスなんだ」

 コワモテのサングラスの奥に、柔和な瞳がのぞく。『楽園の瑕』『恋する惑星』『ブエノスアイレス』『花様年華』『2046』と、香港映画のみならずアジア映画に革新をもたらしたウォン・カーウァイ監督が、初めてアメリカを舞台に撮った最新作『マイ・ブルーベリー・ナイツ』のPRのために来日、インタビューに応じてくれた。 

 監督の作品は、常にテーマに愛がある。単純にラブストーリーと言い切れない人間同士の愛を、独特の映像美で描く“カーウァイ スタイル”は、誰も真似できないひとつのジャンルとして確立したといってもいいだろう。ノラ・ジョーンズの初出演作としても話題の今作は、その漂う映像の中、ひとりの女性の喪失と再生を描く物語だ。

 恋を失い、旅立った女性は、旅の途上でさまざまな愛の形に遭遇する。そしてその出会いを通し、彼女は自分の居場所を見つけだしていく。今回、監督は脚本を書くにあたり、『八百万の死にざま』などのヒット作を持つ米ハードボイルド作家、ロ−レンス・ブロックとの共同作業を選んだ。

「アメリカを舞台に映画を作る場合、現地の作家と何らかの協力関係を築きたいと思ったんです。もともとブロックさんは僕の敬愛する作家で、作品の多くは探偵物語だけど、登場する人物はどこか失意しながらも豊かな感情を抱いている場合が多い。今までラブストーリーは書いたことがないだろうけど、興味ありますか?と聞いたら返事をいただき、一緒にやることが決まったんです」。そして出演陣には、ノラ以外にも、ジュード・ロウ、デイヴィッド・ストラザーン、レイチェル・ワイズ、ナタリー・ポートマンと、オスカー級の役者がずらりと並んだ。監督は役者たちにもある協力を願い出た。「僕は小さいころからアメリカ映画を見て育ち、英語も話すけど、100%アメリカ人を描けるかというと無理だと思う。西洋の人が映画でアジアを描くと不自然な部分が多いように、僕も同じ間違いをしてはいけないと思った。だからノラやジュードにはっきり言いました。脚本の上のセリフはこうだけど、それをどう語っていくかはみなさんの手助けが必要だってね。冒頭にふたりのキスシーンがあるけど、僕としては、カウンターで眠っている彼女の口についたクリームを、手で拭くと起こしてしまうかもしれないから、キスで片付ける、という感じに説明したんですよ。この男ならそうするだろうって。そうしたらジュードに“そんなの、僕ならいきなりキスだよ”って言われた(笑)。でもそのシーンに関しては、ノラが“監督のやり方もある”と言ったので、どちらになったかは劇場で確認してください(笑)」

 映画にはもうひとつ、印象的なキスシーンがある。長い時間と距離を経て、旅を終えたノラが再びジュードと相対する場面だ。

「僕もこのキスのシーンはとても重要な場面だと思ってます。ロマンチックなだけでなく、彼女の選択が、キスを通して描かれているんですよ。冒頭のキスシーンでは、彼女は寝てるように見えるけど実は分かっているんです。ただ、自分はどう選択をしたらいいかが分からなかった。でも二番目のキスでは、彼女は自分が何を求めているのか分かっていて、幸せをつかもうと決意している。ふたつのキスシーンの唯一の違いは、彼女の手なんです。最後のキスでは、寝ているように見える彼女の手がテーブルの下からだんだん上がってきて、彼の首にふれる。でも、そのわずか数十センチ手を動かすために、彼女は5000キロ以上の旅をしなければならなかった。僕は最後のキスで、そこを表現したかったんです」

 物語を考える時、登場人物の中に自分が完全に入り込むことが必要だと監督は言う。監督の描く恋がいつもせつなさを孕むのは、恋に対する自分の考えかと聞くと、「ある程度は主観も影響するかもしれないけど…僕自身の経験とは関係ないですよ」と、コワモテを崩してニヤリと笑った。




(取材・文/幸野敦子)

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』 監督:ウォン・カーウァイ/共同脚本:ウォン・カーウァイ、ローレンス・ブロック/音楽:ライ・クーダー/出演:ノラ・ジョーンズ、ジュード・ロウ、デイヴィッド・ストラザーン、レイチェル・ワイズ、ナタリー・ポートマン他/アスミック・エース配給/1時間35分/3月22日より日比谷スカラ座ほか東宝洋画系にて全国ロードショー公開


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