
vol.352
故市川崑監督の幻の映画公開へ
2月13日に肺炎のため死去した日本映画界の名匠、市川崑監督(享年92歳)のお別れ会が、3月29日、世田谷区の東宝スタジオ第9ステージで行われた。
春の丘をイメージした祭壇に、穏やかな表情でたばこをくわえる市川崑監督の遺影。役者や映画関係者役850人が参列する中、弔辞を読んだ石坂浩ニは「父親のような存在でした」と涙した。しかし悲しいだけの日ではなかった。市川監督の“未公開映画”の存在が明らかになり、この日、新たに公開されることが発表された。
その映画は、平成5年に撮影された『その木戸を通って』。当時、NHKと民放各局が取り組んでいたハイビジョン実用化試験放送(BS-9ch)でオンエアする作品として制作されたものだ。体裁はフジ制作のハイビジョンドラマだったが、市川監督の意識は“映画”。事実、ハイビジョンから35ミリフィルムに変換し、1993年ベネチア国際映画祭の特別招待作品、94年のロッテルダム国際映画祭批評家選出部門に出品された。だが国内では平成7年3月26日午後7時から、たった1度放送されたのみ。しかも実験チャンネルだったため、どれほどの人が見たかは定かでない。それが昨年秋、偶然同作の存在を知った関係者が「公にするべき」と企画を練り始め、11月に市川監督に知らせたところ、監督は「うれしい。ぜひとも劇場でかけてほしい」と語ったという。
『その木戸−』は、山本周五郎原作。記憶喪失の娘、ふさ(浅野ゆう子)と、彼女と結婚した正四郎(中井貴一)の不可思議な物語。市川監督がハイビジョンという当時の最新技術に果敢に挑戦した記念碑的な作品だ。
今後、フジテレビやBSフジ、CSなどで放送、劇場上映、秋にはDVD発売を目指す。