
vol.356
自身の処女小説を映画化
原作・脚本・監督・出演
「痛いほどきみが好きなのに」
イーサン・ホーク
「マーク・ウェバーはたいした役者だよ。僕がヒントを与えるまでもなく、ウィリアムをどう演じるべきか、この作品でどう自分があるべきか分かっていたみたいだった」
監督、イーサン・ホークは窓の外に広がる東京の景色をまぶしそうに見た。すでにトレードマークとなっている眉間の深いしわ。初めての長編映画を完成させたという経験もそこに刻み込まれている。
「リアリティ・バイツ」、「恋人までの距離<ディスタンス>(原題:ビフォア・サンライズ)」、「ガタカ」、「ビフォア・サンセット」。「トレーニング・デイ」ではアカデミー賞助演男優賞にもノミネートされた。14歳のとき、初めて映画に出演してから、時代を代表する数々の作品に出演。インタビューの前日、偶然にもテレビで「いまを生きる」を見た。「お、若いなって思ったよ」とさらに目を細める。
ショートフィルムやリサ・ローブのミュージッククリップで監督を務めたこともある。「ビフォア・サンセット」では、共同で脚本も手がけた。そしていよいよ、この「痛いほどきみが好きなのに」で初めて長編映画を監督、脚本も担当、さらに出演もする。ちなみに本作の原作は、彼の処女小説でもある。
「いつ映画を監督したいと思ったか? う〜ん、それはなかなかいい質問だね。多分、それはずっと前、まだ学生をしていたころからだと思うよ。演技だとか、映画についてだとか勉強していくなかで、いつかカメラの反対側に立ちたいという気持ちが芽生えていたんだと思う。でもそれが正確にいつかっていうのは、分からないな」
小説「痛いほどきみが好きなのに」は96年に発表した。役者志望の悩み多き青年が恋に落ち、悩むという内容は、セミ・オートバイオグラフィーとも言われている。自分の分身ともなる主人公に、マーク・ウェバーを選んだ。
「作っているところがなくて、自然で、ありのままだった。そこに惹かれたんだと思う。まだ若いけれど、いろんな人生経験を積んできているところも気に入ったんだ。とくに、これを映画にしたいと意識しながら、小説を書いていたわけじゃなかったから彼がきっかけでこの作品に取り組むことを決めたといってもいいね」
そのためなのか、マーク演じるウィリアムは時々、イーサンが出演作品で見せた表情やポーズとそっくりな演技をしてみせる。「そう?(笑)それは彼に聞いてみないとね」と監督は笑う。
その一方で、主人公が全身全霊で恋に落ちる、歌手志望のサラのキャスティングは難航。「かわいらしいだけでなく、神秘的で情熱的でつかみどころがない。それにぴったりな女性を見つけるのに苦労した」。最終的には、カタリーナ・サンディノ・モレノという理想的な存在にたどり着いている。
役者たちが描く恋愛模様は、多少クレイジーなところもあるが、誰もがどこかしら自分の経験と重ね合わせて、甘酢っぱい気持ちになれる。この作品をさらに色づけているのが音楽だ。イーサンとは旧知のなかで、ノラ・ジョーンズの「Don't Know Why」でグラミーを手にしたジェシー・ハリスが手がけている。
「最初はさ、サラが歌う4曲を作ってくれる人を探してたんだ。歌手“志望”の彼女が歌うものだからそれぞれつながりがなくちゃいけないし、そんなにうまくない曲もなくちゃならない(笑)。そのときに、ジェシーが浮かんだんだ。そしたらたくさん作ってきてくれて、全編やってもらうことにしたんだ」
ジェシーが手がけた楽曲を、ノラ・ジョーンズ、ウィリー・ネルソン、ファイストやキャットパワーが歌う。あまりにも豪華なメンバーで、イーサンの初監督作品を祝っているようにも聞こえてくる。
「まずはこの作品が完成し、多くの人に見てもらえることになってほっとしているよ。この次? そうだね、映画も撮りたいけど、今はまた本を書きたいかな。まあ、僕が書くんだからまた恋愛がテーマになるんだろうけど(笑)」
そういうとまたまぶしそうに窓の外を見た。年明け、パートナーとの間に子供ができたというニュースが飛び込んできた。イーサンのやさしそうな視線の向こうには、これから生まれてくる新しい家族の顔が浮かんでいたのかもしれない。
(本紙 酒井紫野)
| 『痛いほどきみが好きなのに』
監督・脚本・原作・出演:イーサン・ホーク 出演:マーク・ウェバー、カタリーノ・サンディノ・モレノ他 ショウゲート配給/1時間57分/5月17日より新宿武蔵野館他にて公開 http://www.itakimi.jp/
|
| STORY:気楽な恋愛を楽しみ、俳優という仕事もまずまずのウィリアムは、シンガーソングライターを目指すサラと出会い、恋に落ちる。しかし2人の間に温度差が生まれ…。
|