
vol.356
康生負けた…北京五輪逃し現役引退へ
29日、日本武道館で北京五輪代表最終選考会を兼ねた全日本柔道選手権大会が行われ、石井慧が鈴木桂治を破り優勝。大会後には強化委員会が開催され、石井が男子100キロ超級の日本代表に決まった。
3度目の五輪出場を目指していた井上康生は、準々決勝で高井洋平に敗戦。北京への道が絶たれた。
旗判定での決着が迫った、準々決勝残り10秒。井上は五輪へのわずかな可能性を追い求め、伝家の宝刀を抜いた。「自分の柔道に皆さんが共感し、応援してくれている」。ファンへの恩返しを胸に秘めて放った最後の内または高井にすかされ、そのまま抑え込みで一本負けを喫した。
「北京に向かって夢を追いかけ続けてきてよかった。悔いはない」
現役を引退する意向を胸に、井上は穏やかな笑顔でこう話した。今年1月にタレントの東原亜希さんと結婚。「金メダルを結婚指輪にしたい」と誓った。しかし、2月のフランス国際は5位に終わり、周囲に「もうやめたい」と引退を口にしたこともあった。
だが、その後は達観したように自分らしさを取り戻した。日本武道館にはこの日、何度も「康生コール」が響いた。井上選手は「最後の最後までああやって…幸せ者です」。
世界選手権、五輪、全日本選手権の「三冠」を史上最年少の22歳で達成。新たな目標が最重量級での挑戦だった。“最強”の夢には届かなかったが、井上の一本にこだわるスタイルは、日本柔道の強さ、美しさを体現するものとして海外に影響を与えた。
恩師である山下泰裕・東海大教授は「芸術的な内またで一時代を築いた。よくここまで頑張った。苦しかった経験を指導者として生かしてほしい」とねぎらった。井上の現役生活にはピリオドが打たれたが、その魂は次代に受け継がれる。