
vol.359
『世界で一番美しい夜』
主演 田口トモロヲ
とある農村に飛ばされた新聞記者が、縄文の秘密や保険金殺人疑惑のある美女や過激派たちと出会い、最後は出生率ナンバー1の村の秘密がとけるって…いったい、どんな映画? 巨匠・今村昌平監督の長男、天願大介監督が手がける“誰も死なないテロのおはなし”。おまけにその案内役は、最も底が知れない俳優・田口トモロヲだからして…。
「映画を作る現場は、祝福されているんです」
「文化庁支援でR-18指定。矛盾が同時に存在している作品(笑)」
奇妙な村に赴任してきた新聞記者・水野一八。主人公を演じるのが田口トモロヲという時点で、話がどう転ぶのか、もう分からない。
「最初のころは冗談で“日本版ツイン・ピークスだよ”と周囲に言っていたんですけどね。いまだかつて日本映画にこういう作品があっただろうかというくらい、オンリーワンの作品です。…何一つうまい説明になっていないんですけど(笑)」
では、せめてどんな主人公なのかを語ってもらおう。
「ヘビになるんです、また」
ヘビ? また?
「最初、天願大介監督に、今村昌平監督の『11’9”01/セプテンバー11 日本篇“おとなしい日本人”』のときのような“蛇”をやってほしい、と言われたんです。…ストーリーはまだできてないんですけどトモロヲさんが引き受けてくれたら書き始めるからって。そんなことを言われたら了承しないわけには行かないじゃないですか(笑)。それに、単純にあのとき苦労したことがもう1回生かせるな、とも思ったんですよね。ヘビの役作りはしてあるから、今度はさらにステージをあげて演じることができるのではないかと。…まあヘビを演じるのが役者の仕事かといったら疑問は残りますが(笑)」。
かくして田口はヘビになる主人公を演じるのだが、共演する役者たちも負けていない。村にやってきた一八を早々に困惑させるのが、過激派とウワサされる男・仁瓶役に石橋凌。なぜ一八が困惑するかというと、股間に土瓶をひっかけて登場するからである。
「日本映画史に残る登場シーンでしょうね。A.R.B.(石橋がボーカルを務めた伝説的ロックバンド)ファンは、どう思うんでしょう。きっと絶賛でしょうけども(笑)。セックス論を語るときのテンションの高さなんて、ちょっとあなたどうかされちゃったんじゃないですか、というくらいですよね。大丈夫ですかー石橋さーん、って(笑)」
思わず一八=田口も…。
「あんたバカでしょ、って。でも、一八はそう言いつつもそんな人たちに心引かれているんですよ。一般人としてああいう過剰な人たちを否定しなければいけないんだけど、実は心引かれている」
未亡人・輝子を演じるのは宝塚歌劇団出身の月船さらら。ヒロインだが訳アリで、これまた一八を仰天させる。なぜ一八が仰天するかというと貞操帯(継ぎ目なし)を装着しているからである。
「あの貞操帯がハジケ飛ぶシーンは、スタッフがピアノ線で引っぱっているんですけど、全方向のタイミングが合わないといけないものだから2、3時間かかってしまって。その間、月船さんはずっと仁王立ちです。カッコいい。女優魂に拍手です。ファンからお叱りが来るのでは…と聞いたら“来ますね”って(笑)」
歌う漁師・権三役には田口も深く敬愛する、フォークシンガー・三上寛。やさぐれてしまった先輩記者に佐野史郎。他、個性豊か…過ぎる?役者たちが揃う。
「どの俳優さんも、こんな作品は他にない、と話していました。この奇妙キテレツな作品に選ばれたことは光栄だと。自分が出ないシーンの撮影をのぞきに来たりするほど、みなさん熱心でしたよ。僕はずっと出ずっぱりですから、いろいろな人たちの芝居を見ていられて幸せでした。めったに出会えない人たちが一堂に会して、そこらの動物番組に引けをとらないくらい珍しい状況でしたからね(笑)。自分も頑張らなくては、と思いました。人間としても、そして表現者としても」
なぜ主人公がヘビになるのか、なぜ貞操帯が飛ぶのか、なぜ要村が出生率ナンバー1になるのか…それはもちろん、本作を見てのお楽しみ。
「“誰も死なないテロ”というフレーズはピッタリだと思います。make love no war、ですよね。これだけ経済ばかり発展しているのに人間の精神性が発展していない。この台本にはいいセリフがたくさんあるんです。その1つが“幸福になる方法知ってる? 満足の水準を下げること”。まさにその通りですよね」
いま宮藤宮九郎作品『少年メリケンサック』の撮影中。バンド再結成したパンクオヤジたちのロードムービー。田口本人と重なる部分がある役どころだ。
「実は、パンクバンドをやっていたときのことをあまり覚えてなかったんです。何も知らないうちから、この作品に劣らない過激な人たちと出会ったりして、刺激が強すぎたんでしょうね(笑)。宮藤さんに聞かれて、いろいろ当時のことを思い出しました。自分がやっていたことをおもしろがって聞いてくれる人がいるなんて、不思議な気持ちです。…まあ、あのころの仲間たちにも今は亡き人もいますしね…僕もこんなに長生きする予定ではなかったんだけど(笑)。自分がやっていたことをそのまま生かせるというのは楽しいです。この作品でもヘビを生かしましたし(笑)」
(本紙 秋吉布由子)