今週のTOKYO HEADLINE
vol.359
(2008.05/26-06/01)
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INTERVIEW vol.359

スタートから10年で感じた、音楽との新しい関係

安藤裕子

シンガーソングライターの安藤裕子がニューアルバム『chronicle.』を発表した。これまで、CMソングになって多くの人に愛された「のうぜんかつら(リプライズ)」や、映画『自虐の詩』の主題歌「海原の月」など、心を揺さぶる楽曲の数々を生み出し、音楽シーンにおける存在感を増してきたが、このアルバムを作る過程でまた良い方向へと変化を遂げている。彼女になにが起こったのか? 本人に聞いた。

“音楽”がいつも自分の隣りに ちょこんって座っている気がするんです そのせいか、音楽をやるのがなんだか楽になりました

 仙台、北海道を巡り、インタビューの後はすぐさま新幹線に飛び乗って大阪に向かうという。最新作『chronicle.』の発売を控え、キャンペーンのために全国を飛び回る安藤裕子を所属事務所で捕まえた。

「これまでの作品もそれぞれ大切に思っているんですが、今回はそのなかでも特別といえるもの。まだ、ファンの方の反応は分からないんですけど、取材を受けるなかでいい感想もいただいて、うれしいですね」

 全国行脚の感想を尋ねると笑顔で答えた。アルバムをより多くの人の元へ届けるために必要なこととはいえ、疲れも見えなくない。が、良好なレスポンスに本人の表情はいたって明るい。

 最新作『chronicle.』は、一つの物語のように構成されているが、いつものように最後の曲はカーテンコール的なものではなく、ストーリーがループする作品。2回、3回と、聞くほどにまた新しい世界が見えてくる。

 制作中、「難航しているらしい」と風のうわさで聞いた。真偽を尋ねると、実際いろいろ考えるところもあったようだ。

「曲を作っていたら、『海原の月』があったことも関係していると思うんですが、バラードが多くなっちゃったんですよね。私自身、一度決まったモードになってしまうと、自分のなかから同じようなものが出てくる傾向もありますし。それで、スタッフと一緒に出来上がった曲を並べながら、バラードを削らなくちゃいけないなぁなんて話もあったり。それぞれが、これじゃいけないだろうっていう思いもあったと思うんですね。実際、アレンジャー(山本隆二)とちょっと言い合いになったりもしたし。あとで、お互い、面と向かっては言いにくいんで、メールで“これからも一緒に頑張ろう”ってメッセージを送りあったりして。そういう状況のなかで、明るい曲を作ろう!って作ったのが、シングルにもなった『パラレル』でした。この曲はもともとあんなにパワフルなものになるとは考えていなかったんですけど、レコーディングで、ドラムのカウントが入った瞬間に、なにか迫ってくるものがあって。この作品が出てきてから、一気に最後まで進みました」

 ターニングポイントになった『パラレル』は、スピード感があり、曲が進んでいくほどに、視界がどんどん開けて、クリアになっていく印象がある。さらに話を聞くと、彼女にもこの『パラレル』効果が起こったようだ。

「自分のなかで何かが変わっていく感覚があったんです。なんていうのかな、音楽との距離が近くなったというか……、言葉にするのは難しいんですけど、何をしていても音楽があるというか、こうやってインタビューしていても “音楽”っていうのが自分の隣りにちょこんって座っている気がするんです。なんか音楽に見守られているような感覚。そのせいか、音楽をやるのがなんだか楽になったんですよ」

 この時期には、アルバム制作と並行して、全国4都市をめぐるアコースティックツアーも行っていた。その変化の兆しは本作のDVDに収録されているライブを追ったドキュメントを見ていても明らかだ。変化も含め、彼女が感じた時代を追ったものだから、この作品にも、『chronicle.』=年代記というタイトルをつけた。「音楽性がなんとかではなく、人間としての年代記ですね」と、本人は照れた。

「音楽をやっているのは仲間探しみたいなもの」と、彼女は、以前本紙で行ったインタビューで話している。

「(音楽を)始めたころはたくさんの人の前で歌ったりするようになるなんて考えもしなかった。なによりも、自分自身がひとつのことをこんなに長く続けるなんて想像もできなかったし。私、子供のころから習い事とかまったく続かなかったんですよ。ピアノも、姉たちがずっと続けていくのに対して、数週間やったところで練習を拒否してたし(笑)。だから、家族でさえ、私が今歌っていることを信じられないんじゃないかな。でも、こうやって続いているっていうのは、自分にとって音楽が特別なものだったんだなって思いますね。今は、音楽というものを生業としていなかったとしても音楽を作っていく気がしています」 

 今年でデビューして5年。仲間探しの方法である音楽を始めて10年になる。その間に、音楽を一緒に作る仲間との結束が強まり、ネットワークも広がり、彼女が作る音楽を介して集まった仲間=ファンも増えた。

「いつも言っていることになってしまうんですが、“あっ!いい曲ができたからみんな聞いて!”って感じで音楽をやっているだけで、とくに何を伝えたいとかないんです。ただ、聞いてくれた人たちが手をつないでいく輪っかがどんどん大きくなっていけばいいなって、それだけで」 

 6月、この自信作を持ってホールツアーに出る。追加公演を含めて7都市10公演。「また、アコースティックで地方も回れたらいいと思っているんですけどね」と、ポツリ。安藤裕子が作る音楽の輪はもっともっと大きくなっていきそうだ。




(本紙・酒井紫野)

New Album『chronicle.』 cutting edge CD+DVD 3400円(税込)
※CDのみは2800円(税込)。


『海原の月』、『パラレル』など全13曲を収録。東京スカパラダイスオーケストラの茂木欣一をゲストボーカルに迎えた、小沢健二のカバー「ぼくらが旅に出る理由」、SUEMITSU & THE SUEMITH書き下ろしの「HAPPY」も収録している。DVDは、今年初頭に行ったアコースティックライブツアーのドキュメントとミュージッククリップを収録している。リリースおよび最新の情報は、www.ando-yuko.com


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