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vol.360
(2008.06/02-06/08)
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INTERVIEW vol.360

坂東玉三郎の名演『ふるあめりかに袖はぬらさじ』
がシネマ歌舞伎で公開

坂東玉三郎

有吉佐和子原作の『ふるあめりかに袖はぬらさじ』は、昭和47年の文学座公演で、杉村春子主演で初演された。その後、杉村が演じた主人公『お園』役を坂東玉三郎が受け継ぎ、当たり役として上演が繰り返されてきた。新派の舞台が初めて歌舞伎として上演されたのは昨年の12月。共演に中村勘三郎、中村七之助、中村獅童、坂東三津五郎などが名を連ねるオールスターキャストでの舞台は大評判を呼び、連日大入りで幕を閉じた。その名作舞台が満を持し、シネマ歌舞伎として上映される。

「男の勝手さを否定せず、“あの人たちだって大変なのよ”と描く。
有吉佐和子さんの叶えられない本音が作品にはあると思いますね」

 時は幕末。開港間もない横浜の遊郭『岩亀楼』で、ひとりの遊女が自ら命を絶つ。それは叶わぬ恋を儚んでの行為だったが、尊皇攘夷の時代の流れの中、遊女が自害したのは外国人への身請けを拒んだ行為として、一躍『攘夷女郎』に祭り上げられ、伝説となっていく。主人公となる『岩亀楼』の芸者・お園は、すべてを知りつつ、その伝説の流布に一役買っていく。

 そんな時代をシニカルに捕らえながらも、舞台には笑いの要素も多い。時代に翻弄され右往左往する人間をあたたかな目で見つめる作品。それが、今作の魅力でもあると玉三郎は話した。

「この作品は、初演時には批評家の方々からあまり評価されなかった部分があったんですね。その前に杉村春子先生が演じた、有吉先生の『華岡青洲の妻』の完成度が高く、これは喜劇仕立てでそれなりのものだと。でも、僕が20歳前後で初めて観た時は素晴らしい作品だと思いました。当時はまさか自分がお園をやらせていただくなんて想像もできなかったですが、いろんな作品を上演させていただく中で、こういう女性像を自分が演じたいという願いが出てきましたね」

 玉三郎がお園を演じるのは、昨年12月の歌舞伎座での上演で9回目。人間味たっぷりの中年の芸者を演じることに、「若いころは、髪や着物を老けたように作り込んだりして一生懸命やっていたんですけど、だんだんこの女性の年齢とキャラクターを作らなくてよくなってきたというのはありますね」と、笑顔を見せる。そして玉三郎は、この舞台の根幹をなす、作家・有吉佐和子の心情について話を進めた。

「『華岡青州−』も『ふるあめりか−』も、有吉先生のこの2つの作品は、女性がほどんと外に出ない。『華岡青州−』では、女たちは外に出た男たちを華岡家で待ってる。『ふるあめりか−』も、あらゆる意味で廓から出られない女たちの話なんですね。実際、有吉先生のご主人は外国でも仕事をなさったプロデューサーで、そういうご主人を、勇ましくも、男のずるさも見ながら有吉先生は生きてきたんじゃないかと思うんですよ。この作品には、最初に命を絶つ亀遊という遊女と、藤吉という男の恋が描かれていますが、有吉先生とご主人をそのふたりに託し、成就させてあげたいという深層心理があったのではないかと。しかしふたりは結ばれない。その中で、すべてを見ていたお園に言わせる最後の5行か6行のセリフが、有吉先生の本音じゃないかと思って演じさせていただいたんです。有吉先生はひたすら海外に行ったご主人のことを思いながら部屋の中で執筆している。外からさしてくる朝日や夕日、あるいは去来する船の汽笛が廓の中に聞こえてくることによって、彼女たちの遙かな夢、叶えられないものが根底に流れ出る。そういう物語だと僕は思っています。有吉先生が出てきたら“そうじゃないわよ”と言うかもしれないですけどね」

 いつも女たちは本当のことを心に秘めている。しかし男には、世の中があり、時代の流れがあり、建て前がある。「そこで建て前はくだらないと切り捨てないのが、有吉先生の素晴らしいところ」と玉三郎はつけ足した。

「例えばあの時代、開国するかどうかをあれだけ命がけでやっているのに、時が過ぎてしまえばどちらでもよくなっちゃう。そうなることを女のほうが先に知ってるんですよね。それでも廓に出入りする男たちは血眼になってる。それが商売になると思ったら、伝説でも何でも作ってしまう。そういう男の勝手さを、女から見て否定するのではなく、手の届かないものとして書いてる。あの人たちだって大変なのよって。シニカルなだけで終わらないのがこの作品のおもしろいところで、それを暗い話として持っていかないのが、有吉先生が劇作家としてすぐれているところだと思いますね」

 政治的な建て前で流れていく世の中は時代時代で変わっていくが、本音はいつも変わらずそこにある。なんだか現代にも通じる話だ。優れた作品には時を超える普遍性がある。人間を見つめる確かな目と、ある種のあたたかさ。それが玉三郎の演技により、さらに増幅して観客に届くのだ。

 好きなシーンを聞くと、「今話したような作品の意図が好き」とひと言。「“華岡青州”も“ふるあめりか”も、有吉先生は雨が好きなのね」

 上映時間は2時間40分。その長さをみじんも感じさせずに一気に観せる構成は見事。傑作は時間を忘れさせるという言葉を実感する作品だ。




(取材・文/幸野敦子)

シネマ歌舞伎『ふるあめりかに袖はぬらさじ 作・有吉佐和子/演出・戌井市郎/出演・坂東玉三郎、中村獅童、中村七之助、中村福助、坂東彌十郎、市川海老蔵、市川右近、中村勘太郎、中村橋之助、坂東三津五郎、中村勘三郎ほか/2時間40分/6月27日まで東劇にて公開中


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