
vol.361
『髪結いの亭主』『橋の上の娘』巨匠ルコントが描く“大人の友情”――『ぼくの大切なともだち』
パトリス・ルコント
パトリス・ルコント――日本にも多くの愛好家を持つフランス映画界の巨匠は、最新作『ぼくの大切なともだち』の後、3本の長編を撮って引退することを表明している。そんなショッキングな知らせとともに日本に届いた新作は、こみ上げる笑いが爽やかな感動に変わる友情コメディー。そこにルコント監督の迷いらしきものはみじんもない。
僕に親友?…いないと思う(笑)。
「初めて日本に来たときのことはまったく覚えてないんです(笑)。でも、僕に関してはその当時も今も、まったく何も変わっていません。今度日本に来るときには2日くらいフリーの日がほしいですね(笑)」
輝く目をクリクリと動かしながら、楽しそうに語り始めたルコント監督。新作『ぼくの大切なともだち』は、そんな監督のおちゃめっぷりがギュッとつまった大人のコメディーだ。主人公はやり手の美術商フランソワ。あるとき彼は仕事仲間から“君に友達はいない”と指摘され、動揺しながらもあと10日で親友を披露するという賭けをすることに。ところが自分勝手なフランソワを親友だと呼んでくれる者は見つからず…。
「フランソワには親友がいるということを証明するために10日間しかない。そんなとき自分だったらどうする…というところから、ジェローム・トネールと物語を進めていきました。フランソワをはじめ、とくにモデルになった人たちというのはいないんですよ。でも、ジェロームと共に脚本を書いている間は、こんな人を知っている、あんな人を知っている、というようなエピソードを集めていました。2人で脚本を書いて、互いに補い合っていたから、いまではどの部分が自分のアイデアでどの部分がジェロームのものだか覚えていないんです。この作品に登場する人々は、実際にいる人たちの寄せ集めで作られているんです。だから、彼らは皆さんの近くにいるようでいない、そんなキャラクターになっているんですよ」
親友探しにやっきになるフランソワは、偶然、街で見かけた気さくなタクシー運転手・ブリュノに“親友を作るコツ”を教わることに…。大人にとって親友とは何なのか、そして親友はどれほど大切なものなのか…笑いながらも自らを省みずにはいられない。ところで、ルコント監督自身の親友とは…。
「(共同脚本の)ジェローム・トネールには親友がいるんです。彼いわく、相手は大親友だから夜中の3時であっても、気兼ねなく電話して話すことができる、と言うんです。それが親友であるとすると…僕には親友はいない、と言えますね(笑)。親友というのは、片方だけがそう思っていても親友とは言えないでしょう。両方が互いをそう思っていて初めて親友と言える。友情は一方通行では生まれない。だからやっぱり、僕には親友はいないと思う」
イタズラを仕掛けるように、コミカルなエピソードをちりばめるルコント監督の姿が目に浮かぶ。
「好きなエピソードはたくさんあります。1つは、フランソワが親友同士らしき見知らぬ男たちにどうやって親友になったのかを尋ねようとして気味悪がられるシーン(笑)」
しかし本作は笑いだけでは終わらない。
「『イリアス』におけるアキレスとパトロクルスの友情をモチーフにした壺のエピソードや、サン=テグジュペリの『星の王子さま』の一節を使ったシーンも好きです。とても美しい効果を与えてくれたと思っています」
フランソワとブリュノはいつしか友情を感じるようになるが、フランソワが本当の親友を手にするにはまだ大きな試練が…。クライマックスを飾るのは、実際にフランスで人気のクイズ番組。 “親友に電話して聞いていい”という問題で、果たしてブリュノはフランソワに電話してくれるのか…?
「実際には、長年友人を作らなかった人物が、フランソワのような出会いをするのはむずかしいでしょうね。やはり、他者に対してどう接してきたか、その積み重ねだと思います」
親友はいないと思う、と語る監督だが、監督が積み重ねてきた仕事は、世界中に多くのルコント賛美者を生んできた。彼がメガホンを置いても、増え続けることだろう。
(本紙・秋吉布由子)
| フランソワを演じたルコント組のダニエル・オートゥイユだが、今回新たに参加したブリュノ役ダニー・ブーンの演技を絶賛。本作を通して実際に親友となったオートゥイユとブーンの友情に、監督も親友が欲しくなったりして?
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