
vol.363
寡黙な表情で、ドラマを雄弁に語る名優
『告発のとき』
トミー・リー・ジョーンズ
『ミリオンダラー・ベイビー』『クラッシュ』と、2年連続でアカデミー賞を受賞したポール・ハギス監督が最新作『告発のとき』の主人公に選んだのは、日本ではCMでもおなじみの名優トミー・リー・ジョーンズ。現地インタビューでは、実はかなりの日本好きという素顔も見せてくれました!
ずっとにこやかな笑顔でいるなんて、見苦しいよ。
映画界でも評価の高い“仕事人”監督ポール・ハギスのもと、息子を失いその死の真相を突き止めようとする“アメリカの父親”を演じたトミー・リー・ジョーンズ。名優として評価され続け、初監督作『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』では、監督としての実力を知らしめたハリウッドの重鎮だ。今回彼が演じたのは、イラク戦争から帰還したばかりの息子が焼死体で発見され、その死の真相を追ううちに、息子のそしてアメリカ社会の闇に直面していく父親ハンク。
ハンクは自分も軍人として祖国のために戦った経験を持ち、揺ぎない愛国心を持っていた男、アメリカが何をしようが支持するタイプの男だ。「私が彼のようになった可能性? それはないね」とジョーンズは語る。ジョーンズ本人とは対照的といっていい人物像。ハンクをどう理解したのか。
「脚本を読んで、少し監督と話をすればいいのさ。ハンクが軍人で権威に対して疑いを持っていないのは脚本を読めば明らかだからね。それに彼はもの凄く愛国心が強いうえに、民族中心的な面をもつ男だ。ラテン系のバックグラウンドやヒスパニック系の人々に対しての偏見を持っていたりする。ある意味、危険な可能性を持ち合わせている男でもある。これが脚本に書かれている彼の経験から学べることだ。こういう事がキャラクターについて学ぶ・理解するのに必要な要素なのさ。演技についてチャレンジなことは特にはなかった。脚本があって、他の俳優がいるんだから、ただ、やるべき事をやるだけなんだ。チャレンジングだったことといえば、技術的な事ぐらいさ。(撮影場所の)アルバカーキはアメリカで一番うるさい街なんだ。ということはフィルムメーカーにとっても最悪な状況ってことさ。いつも、地元のラジオ局を垂れ流しにしながら空気式レンチでタイヤを替えてる人がいたり、低飛行で飛行機が飛んでいたり、犬は吠えるし、カラスは電柱から下の人々に向かってカァーカァー鳴いているよ。こんな騒音が飛びかってる。だから一番のチャレンジはアルバカーキの騒音さ」。
ところで日本では彼は、名優であると同時に“お茶の間の顔”でもある。仏頂面のまま、ユーモラスな姿を披露するCMも大人気。
「私はいつも笑顔だからね(シニカルなジョーク?)。でも、ずっとにこやかな笑顔でいるなんて、見苦しいよ」
日本についてどんな印象を?
「私は日本が大好きだよ。映画のプロモーションや、その他の仕事で日本に行くんだけど、そのたびに必ず数週間の休みを取ることにしてる。そうすれば妻と京都に行けるからね。京都はとても落ち着くよ。まるでホームのような心地よさが京都や、近隣の街にはある。歌舞伎も大好きで、12月の京都は最高だ。東京にある歌舞伎座ももちろん大好きさ。東京の歌舞伎座の他に、京都にはとても小さな劇場があって歌舞伎を観ることができるんだよ」
薪能も鑑賞したことがあるとかで、日本についての話が止まらない。
「劇は昼間に始まって、彼らの後ろを実際に太陽が山に沈んで夜になるんだけど、劇もその時間に沿って進んでいく。その空間すべてがセットになってるんだ。それはもう興奮したよ。京都をさらに好きになったね。あと、日本食と日本の芸術も楽しんでるよ。木版画の芳年という名を聞いたことはある? 100枚からなる月の満ち欠けの画(月岡芳年の『月百姿』のこと)が凄くって…京都で見つけて、娘のために購入したんだ。クローゼットの暗闇の中で静かにしているよ。直接日光を当てては良くないからね。3週間ごとに画が切り替わるようになっていて、一枚をめくるともう一枚が現れるというように、壁に掛けてあるんだ」
“仏頂面”の間に、さまざまな人や文化への好奇心を垣間見せるジョーンズ。そんな彼だからこそ、妄信的ともいえる愛国精神を持った男の悲哀を、ありのままに演じることができたのだろう。しかし名優は愛すべき仏頂面のまま、己の功績を黙して語らず。
「ハギス監督が私をとても良く演出してくれたに違いないよ。なんて言ったってアカデミー賞にノミネートされたんだからね。彼はよくやったよ!って言ってくれたけど」。
(構成・本紙 秋吉布由子)