
vol.363
前川知大 イキウメ 作・演出家
『表と裏と、その向こう』
新宿・紀伊國屋ホール(7月2〜6日)
テレビや舞台で繰り広げられることは大概フィクションといっても差し支えないだろう。ドキュメンタリー映画というカテゴリーだって、すべてが真実を映しているわけではない。製作者による編集という作業が入った段階で、個人の意図によって取捨された映像が“真実”を表せるわけもない。そんなことは百も承知でも、自分の常識をぐらつかせられる作品も中には存在する。7月2日から新宿の紀伊國屋ホールで新作『表と裏と、その向こう』を上演するイキウメという劇団はそんな作品を発表し続けている。
「あったら怖いな」のひとつ上をいく
思わず「フィクションなんだよね!?」と
同意を求めてしまいたくなるストーリー
作・演出の前川知大の作品は「概念」「夢」「無意識下の願望」など哲学をベースに考えられている作品が多い。ちょっと考えさせられて、一度クセになるとなかなか抜け出せない。
「広い意味ではSFなんでしょうけど、今SFという言葉が昔ほど神秘的な言葉として機能していないじゃないですか。今ファンタジーといえば『ロードオブザリング』を想像しちゃう人も多いですし。なので最近では、『自分たちがふだん不思議だなと思うことに関して自分なりの答えをつけてみせる』なんて言ってますけど」
今回は「時間」を題材に「運命」「死生観」といったものが語られる。
「時間を売買できる世界に生きる若者たちのお話です。自殺志願者にしか見えない女の子とそれを止めようとする男の子の恋愛の話と、運命が分かったらどう行動するかという男たちが出てくる。この2つのお話から『死ぬ覚悟ができないと、本当には生きていけないんだぜ、本当のコミュニケーションなんて取れないんだぜ』みたいなことを感じ取ってもらえれば」
以前発表した『関数ドミノ』という作品では劇中の「ドミノ理論」という言葉に観客は翻弄された。物語はフィクションでもベースになる理論は存在するんだ、と捕らえた人多数。
「一番信じてほしいことはゴリ押ししない。“うそ”の設定を声高に主張する者をこてんぱんに叩き潰します。医者とか警察とか権威のある人間、科学的な見地からそれを批判する。例えばUFOだったら、お客さんの立場と一緒の「UFOなんてない」という否定的な意見を持つ人がたくさん出てくる。そんななかでさまざまなエピソードが語られることによって、最終的にじわじわじわじわお客さんが立っていた常識のほうが負けていって、物語の後半では、うそだったことを信じざるをえない状況を作ってしまう。そうしたらお客さんの頭の中では『その設定はうそではない』と知らないうちに変換されるようになる」
よって立つ所が意外に弱かったと気づくと人は途端に不安になる。言うのは簡単だが、前川の作品はこの心理的な「駆け引き」と「仕掛け」が絶妙だ。当初はそこがクローズアップされていた。しかし最近ではもう一方の柱として、ドラマの部分でもぐいぐいと観客を引き付ける。前作『眠りのともだち』などは夫婦のあり方、愛情の示し方などが描かれ、恋愛ドラマとしての側面も高く評価された。結果として、ストーリーで観客の感情を不安定にすることによって、不思議な設定のほうにより深い信じ込みを導くことになった。
「イキウメの舞台を見るツボは、より積極的に見るかどうかだと思うんですよ。頭を使って見るというよりも、前のめりになって見てほしい。もちろんそう見てもらう努力はしないといけないと思っています。“面倒くさいこと言ってるなこいつ”って思われたら、どっかり背中がシートについて退屈させているかもしれない。でもそこで、“えっ何?もう1回言って”みたいに前のめりにさせられたら大丈夫だと思う。そうしたらこちらは懇切丁寧に説明するんで(笑)。大事なことは2回ぐらい言いますし(笑)」
「あったら怖いな」というのは基本的に信じてはいない状態。イキウメは「こんなことあるわけないよね!?」とか「フィクションなんだよね!?」と他人に同意を求めてしまいたくなる、つまり一瞬でも自分に自信が持てなくなってしまう状態に観客を陥れる。この微妙に薄皮1枚違うくらいの感覚を味わえる舞台。
(本紙・本吉英人)
〈ストーリー〉この町では生体情報を元にしたIDひとつで、すべての経済活動、健康状態から行動履歴まで管理されていた。ネットカフェで寝泊りする山根はある日、自分のIDが無効になっていることを知る。同時に父親の再婚相手で保住と名乗る女が現れ、父親の死を告げる。保住から別のIDを与えられた山根は大学に通うことになる。そこで山根は黒澤というボクシングをする女の子と出会う。独特の死生観を持つ黒澤の言葉に興味を持つ山根。黒澤も山根の境遇に興味を持ち、2人は父親と仮のIDについて調べることになる。
一方、小松崎という男を通じ、毎日1分間自分の時間を売っていた桜井だったが、ある日自らの体の異変に気づく。そして小松崎と山根を巻き込み、町のシステムと時間売買の実態に迫っていくのだった。
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| 『表と裏と、その向こう』〈(社)日本劇団協議会主催 創作劇奨励公演〉【日時】7月2日(水)〜6日(日)(開演は平日19時、土日13時/18時。開場は開演30分前。当日券は開演1時間より発売)【会場】紀伊國屋ホール(新宿)【料金】全席指定 前売3500円 当日3800円【問い合わせ】イキウメ(TEL 03-3358-2827〔HP〕http://www.ikiume.jp/)【作・演出】前川知大【出演】浜田信也、盛隆二、岩本幸子、森下創、緒方健児/西牟田恵、内田慈、安井順平
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