
vol.367
『ビルと動物園』主演インタビュー
坂井真紀
ちょっとした偶然をきっかけに出会ったアラウンド30のOLと、これから先どうしていこうか思案中の音大生とのラブストーリーを描いた『ビルと動物園』。主演を務めるのは最近映画に舞台に大忙しの坂井真紀。
そんなに大きな事件が起こっていないように見えて、
ホントは日々ドラマチックな出来事が起こっているんですよね
最近、坂井真紀がブームだ!! と強引に言ってみたりする。もっとも、以前からコンスタントにテレビや映画には出演していたわけで、“最近”というのは失礼かもしれないが…。特に昨年から今年にかけて映画や舞台で注目作への出演が続いている。舞台では倉持裕(ペンギンプルペイルパイルズ)、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(NYLON100℃)、赤堀雅秋(THE SHAMPOO HAT)という現在演劇界で注目を集める3人の演出家の舞台に立て続けに出演した。NYLONにはこの秋にも出演するのだが、NYLONに客演が2回続くのは基本的にないことで、実は結構凄いこと。
「今までも1年に1本のペースでは舞台に出させてもらっていたのですが、去年は2本になっちゃって、今年もTHE SHAMPOO HATの後にNYLONが入っちゃって…。たまたまなんですよ。KERAさんにも『2回続けては坂井が初めてなんだぞ』って言われました。うれしかったんですけど、ただでさえ引き出しがないですから。そろそろ稽古が始まるんですけど、プレッシャーですね。でも舞台って身も心もしごいてもらえるんですね。役者というものに向き合うためにとても必要な時間だなということを実感します。それに演出家さんだったり脚本だったりが凄く面白いので、私自身が魅せられる要素がたくさんあるというのは事実ですよね。この前(5月)の舞台では、赤堀さんにもしごかれましたね。みなさん厳しいですね。でもそれはありがたいことで、とてもうれしいことです。凄くいい時間を過ごさせてもらって、凄くいい財産になっていると思いますね。でもそれを財産にしていかなきゃいけないな、というプレッシャーもありますけどね」
映画と演劇、アプローチの違い。
「全身で見せることとか表現の違いというのは一番大きくて難しいなと思うんです。でも映画も作品自体を含めて監督が背負わなければいけないものが大きいじゃないですか。舞台も作・演出の方がお客さんにすべてを見せて、ダイレクトに答えが返ってくるようなものですから、そういう背負わなきゃいけない部分の大きさみたいなものが割と遠からじだな、とは思っているんですが」
映画では、昨年に若松孝監督作『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』に出演。
「個性的な監督さんなので、若松さんにはしごかれましたね。『テレビの芝居してんじゃねえ』って。何回も怒鳴られました(笑)」
そして最新作『ビルと動物園』の出演は脚本が一番のポイントだったという。
「なかなか今オリジナルのものがないというか、小説やマンガが原作になっている作品のほうが目立っているじゃないですか。そんななかで、『こんなシンプルな話を作っていいんだ〜』と。その部分に魅せられましたね」
演じるはアラサーで人生に迷い気味の女子。自分と重なる部分もあった。
「香子とは違う種類だとは思うんですが、ちょっとこもりたくなる感じだとか、立ち止まりたくなる感じだとかは自分の中にもあったので、そこが沁みるなって思いましたね」
女子に見てほしい!!
「“生きていることと向き合う”ということがテーマになっている作品だと思うんです。自分が見ても“分かる分かる”とシンプルに感じたので、女性を応援する映画になってくれればいいなとか、映画のなかで静かに時が流れるそんなさまを体感して優しい気分になってくれたらいいな、と思いましたね」
一見、淡々と物語は進む。しかしその日常に、ドラマは潜んでいる。
「私たちが普段なにげなく暮らしている日常って、そんなに大きな事件が起こっていないように見えて、ホントは日々ドラマチックな出来事が起こっているんですよね」
対恋人、対父親のエピソードを通じて女性の成長が描かれているこの映画。もう片方で描かれるのが父と娘の関係性。
「私が成長していくことによって、親って年老いていくじゃないですか。私たちが20代から30代になるにつれて親の背中が小さくなっていくということは経験しなきゃいけないことだったりして、実際私もそこを通り過ぎているので、そこの距離感といい父親とのやり取りというのは重みがありましたね」
ここまでの目線はもちろん、香子の、アラサーの女性の目線。もう片方の目線、大学生の慎から見る目線ももちろんある。慎世代の男性からは切実に今を切り取る作品であり、そこを遠く離れた世代からは年上の女性にあこがれたほろ苦い思い出とともに過去を振り返る作品であり、もっと上の結婚適齢期の女性の親世代にあたる人には父親役を演じた渡辺哲の演技に刺さるものがある作品だ。
最後のシーンが終わってエンドロールが流れる。でもこの映画はまだ終わらない。この後2人はどうなっていくのか、みんなはきっと気になる。
「2人が結ばれるような大きな事ではないにしろ、2人の距離がきっと縮まっていくんだろうな〜というふうには想像したんですけどね。それはお互いが一歩進んだことによって、また違った形で元気に声をかけられるようになるんじゃないかと思ったんです。でも中には、一歩進んだからこそという同じ理由で、私とは逆の考えを持つ男性もいまして、その意見は私には凄く新鮮でした。だから今は“香子はどうするんだろうって”自分の中では決められないところはあるんですよね。でも私の胸の中では“前向きなこと”というぼんやりとしたこととして収めておきたいな〜とは思ってます」
いつまでも忘れたくない、それでいて何年か経ったときもう一度確認したくなる映画がある。『ビルと動物園』はそんな感じの映画になった。
(本紙・本吉英人)