
vol.368
『闇の子供たち』
阪本順治監督
この世には幼児売春という悲劇があることを、ほとんどの人が聞き知っているだろう。しかし、その闇が実際どれだけ濃く深いのか、そして幼い子供たちがどんな体験をしているのか、具体的事実に触れたことはあるだろうか。「夜を賭けて」「血と骨」の梁石日の衝撃作を阪本順治監督が映画化。「まずは知ってほしい」。阪本監督は、1人の映画監督として底なしの闇を直視した。
「一番多かった反応は、この事実を知らなかったというものでしょうか。ただ映画を見終わってもすぐに感想を言わない人も多いそうなんですよ。後日、長文で感想を書いて送ってくる人もいるとか」
ある子供は幼児性愛の、ある子供は臓器売買の犠牲に。この恐るべき事実を、容赦の無い映像とストーリーによって突きつけられた観客たちは、もはや本作を“ただの映画”として素通りすることはできないだろう。過去、社会派作品を手がけてきた阪本監督にとっても、本作はこれまでにない経験となった。
「幼児売買というテーマとしっかり向き合うこと、そして描写をしっかり見せることを決意したときから、品性というものが求められたんです。本来、映画を作るのに品性なんて必要ないんですけどね。下品も品のうち、というか。でも今回、初めて品というものを考えて映画を撮らなければいけなかったんです」
その“品”は、阪本監督の現場に対する誠意にもにじむ。
「僕は、最初タイのスタッフやキャストに、これはタイの恥部を暴くことを目的としている映画ではないと説明したんですが、逆に彼らは“この映画はタイの人々が言いたかったことを代弁してくれる映画だ。みんな事実を知っているのに声をあげることができなかった”と言ってくれました。本当にいいモノづくりができた現場でしたね。スタッフみんなが自分の職種を越えて挑んでいた。関係のないパートのスタッフも協力し合った。日本でも最近はなかなかそうはいかないのに、外国のスタッフといっしょにやっていて、そんなことができるなんて。全員が、何を目的としているかをはっきりと理解していた。どこの国にも映画屋はいる、ということなんですよね。ときには、ギャラしか考えない人だっている。現地の組合法だってある。でもそういうことを気にせずに、きつい撮影にも参加してくれた。文句も言わずにね…僕の耳に届いてなかっただけかもしれないけど(笑)」
タイのスタッフ・キャストも“自分たちの映画”ととらえていたのかもしれない。
「でないと、あそこまでやってくれないでしょうね。タイは暴力的描写にも厳しいので、上映されるのは難しいとは思いますが、タイの映画監督たちにも協力してもらって、なんとか上映できればいいとは思います」
そして何より“品性”が求められたのは子供たちの存在ゆえだ。
「虐待を告発するための映画の現場で子供たちを虐待しかねないのでは、という危惧があった。だから子役の子たちのケアに最大限の注意を払いました。まずは、騙して演じさせない、ということ。どんなシーンなのか、どんな演技をするのか“分かった”と言ってもらえるまで説明をする。そして、子供たちの体に触れるのは女性スタッフのみ。映画の中に登場する幼児性愛者は男性ですからね。そして、子供たちに幼児性愛者役の俳優の裸体を見せないこと。同時にフレームに出てくるシーンでは、背を向けさせたり目をつぶらせたりしています。当然、幼児性愛者役の人には一切触れさせない。何より、これは芝居であることを常に意識させること。当然、俳優としての自覚を持っている子役たちを選んでますから、みんなプロでしたよ。監禁部屋の蒸し暑いセットの中でも一言も文句を言わないんですよ。日本の子役だったら泣いていたかもしれない。もちろん、何かあればサッとセットの壁を外して陽の光が入るようにしていたり、細心の注意を払っていました。僕も扇子で扇いであげたりして(笑)。日本でも、子役とはよく遊んでいたんですよ。準備中、僕が一番ヒマだから(笑)」
江口洋介、宮 あおい、妻夫木聡…主役級の俳優たちが、難しいテーマに挑む。
「江口さんの役は、この映画が他人事やよその国の問題じゃないというメッセージを担う役。妻夫木さんはもともと大人のカメラマンの設定だったんですが、無自覚にタイに遊びに行って現実を見て自覚を持つ若者の代表として。宮 さんの役は原作では経験豊かなボランティアだったのですが、映画では初心者にしました。初心者であるゆえいろいろなこととぶつかるけど、思いを突き通すことによって子供を救える。今回参加してくれた俳優たちは、みな自分のイメージが壊れることを危惧する役者ではない。タイでの待遇だって良くはなかったですよ。そもそも待遇のことを気にする役者なら、最初からこの作品には参加しないでしょうけれど。みなさん、現地のスタッフとも積極的に触れ合ってましたね。でも宮 さんがタイ語を一生懸命話しても、現地の人に“分からな〜い”なんて言われてあせってました(笑)。僕が覚えたタイ語は“大丈夫”と“ありがとう”と“ごめんなさい”。一番使ったのは…“ありがとう”かな(笑)。また、子供たちが可愛いんですよ。朝来ると、みんなこう手を合わせて“こんにちは”って。これから子供たちと大変な撮影をしなければいけなくてナーバスになっているのに、こっちが癒されてしまって(笑)」
単なる社会派というジャンルを超え、正面から現実の闇に立ち向かった作品。
「こういうテーマを経験させてもらったのは、大きなことでした。物を作るときの責任の大きさを感じましたね。“たかが映画”なんていうと、今回は言い訳にしかならない。それでも、自分たちのことを心配をしながらでは、この映画は撮れなかった。最初は、当然いろいろな不安がありました。いくら原作があるとはいえ、タイに行ったこともない人間が、タイのことを描くということも含めてね。でも、ブレながらではこの映画は撮れなかったんです」
まずは見て、知って、そしてたじろいでほしい、と語る阪本監督。闇の中を直視することから、すべてが始まる。
(本紙・秋吉布由子)
| 『闇の子供たち』
原作:梁石日 監督:阪本順治 出演:江口洋介、宮ざきあおい、妻夫木聡、ブランドバン・スワンバン、プライマー・ラッチャッタ、佐藤浩市他 ゴー・シネマ配給/2時間18分/8月2日よりシネマライズ他全国順次ロードショー http://www.yami-kodomo.jp/
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