「最近は明るい小説ばかりを書いていたんですが、世の中はそんな愛と信頼に満ちたものばかりじゃないよな…と思いまして」と三浦本人が言うように、最新作『光』は、確かに明るくはない。津波に襲われた島の生き残りの信之、美花、輔(たすく)の3人の“その後”が物語の中心だ。過去を隠し、公務員となって平凡に生きる信之、マスコミをにぎわす女優になった美花、日本各地を渡り歩くプレス職人の輔。接するようで接しない3人の関係の輪は、ある日突然激しく回り始める。
キーワード1.「関係性」
……三浦作品には、しばしば分かちがたい“関係”が描かれる。本作では信之と美花、輔の関係に加え、信之とその妻・南海子との関係、輔と父親・洋一の関係などが折り重なってくる。
「もともと何か秘密があって関係が結ばれる、というパターンが好きではあったんです。だけど、今までの『関係』は、非常に善なるものとして書いてきました。それによってお互いに依存しすぎることなく、支え合う良い関係として。でも、それだけじゃないだろう、と。誰にもばらしたくない秘密による関係を、“こいつは本当に嫌だ”と思う人と結ばないといけないということもあると思うんですよね。それが今回の人物設定になっています」
キーワード2.「島」
……島を舞台にした作品は少ないが三浦作品と“島”はなぜかしっくり来る。
「もともと島が好きなんですよ。学生のころに対馬や、沖縄本島の北にある伊平屋島(いへやじま)に行ったし、伊豆諸島にも行きました。島ってすごく閉鎖的なイメージがありますけど、周りが海だけあって、意外なほど文化の交流がありますし、流れ着くものに対して寛容な部分もある。閉鎖的な面と寛容な面をあわせ持ったおもしろさがありますね。その一方で、小説で書くと共同体の持つ閉塞感を端的に表しやすいということもあります。あとは“閉鎖空間”の象徴としてですね。島に限らず、人は誰もが自分の閉鎖した世界の中だけで生きている。その閉鎖空間からどうやって飛び出すのか、ということが興味のあるところなんです。それを書くために島を使っています」
キーワード3.「暴力」
……「暗い作品」と呼ぶにはワケがあって、それは全編にちりばめられた“暴力”のにおいだ。信之が美花を救うためにふるった暴力、信之の娘・椿に向けられる性的な暴力……。
「性的暴力というのは、私にとっては常に考えたいテーマではありますね。それは暴力の本質をよく表しているから。暴力というのはさまざまな形をしていて、たとえば信之の娘の椿は、ちょっと鈍くさい子なんですけど、自分でいろいろ考えた末に鈍くさくなってしまっている。そういう子を、大人の尺度で見てしまって、ほかの子と比較して、芽を摘んでしまうことも多いと思うんです。学校でも家庭でもそれは同じことで、教育自体が一種の暴力なのかもしれない、と思うことがあります。でも実際、私が子供を持ったとしても、本当にその子を十全に受け入られるだろうかと言うと、それができないのは目に見えていて、結局自分が大人にやられていたことを繰り返してしまうと思う」
キーワード4.「光」
……タイトルの『光』とは何の光なのか。すべてが落ち着きを取り戻すラストシーンは、椿を中心に希望に満ちて見えるが…。
「よく聞かれるんですけど、何の光なのか、書いていて自分でも明確な答えが出なかったんです。出したくなかったと言うか。人を暗い方向へ導く光はたくさん出てきましたけど、それを明るい光に転じさせるようなものは提示できませんでした。だからラストシーンで椿に希望を見てくれる人がいたらそれはうれしい。でも、ラストで椿に希望が託されたのだとしても、それでもやはり日常は理不尽さや暴力を含んで続いていく。そこから暗いものはまた出てくるし、それすらまた日常に飲み込まれ、また……とその繰り返しなんです。だから希望があったとしても新しい暴力を抑制する力にはならないし、その意味で救いはまったくないかもしれません」
三浦しをんがいうように、もしかしたら、救いがないかもしれない本作。しかしそれは、語られる内容がすべて“あなた”自身にも当てはまるものだからかもしれない。ラストが実は残酷で恐ろしいものに見えたとしても、それが自分自身のものだと思えばこそ、逆に生きる力にもなりうるに違いない。
(本紙・土屋季之)