松たか子

人生の面白さはホンモノの大人に学ぶべし! 映画『大鹿村騒動記』

阪本順治監督が、原田芳雄、大楠道代、岸部一徳という超ベテラン俳優をキャストに迎えて描く“娯楽の原点”。個性豊かな大御所たちの相棒を務めるのは、昨年『告白』で映画賞を総なめにした女優・松たか子。

こんな立派な大人がドタバタする話もそうそう無いと思います(笑)

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ネイチャードキュメンタリー映画『ライフ‐いのちをつなぐ物語‐』(9月1日公開)で父・松本幸四郎とともに日本版ナレーションを務めるなど、今後も多彩な活躍が楽しみ。
撮影・神谷渚

 300年も昔から村歌舞伎「大鹿歌舞伎」を伝え続ける長野県下伊那郡の大鹿村。何より大切な公演を控えたある日、18年前に駆け落ちした男女が村に戻ってきた。それは、鹿料理店を営む風祭善の妻・貴子と親友の治。善は複雑な思いを抱えながらも舞台に挑むのだが…。

 本作では、佐藤浩市や瑛太という当代の主役級俳優が、絶妙なバイプレイヤーぶりを発揮。なかでも“大先輩”たちの間に見事に溶け込んでいるのが、村役場の女性職員“みっちゃん”を演じる松たか子だ。当人も、出演を決めた一番の理由は今回の顔ぶれだと語る。

「大鹿歌舞伎にも興味があったんですが、やはり原田さんや大楠さんといった先輩方とご一緒したい、という思いがあったんですよね。皆さん、ほぼ初めての方がほとんどでしたし、どんな撮影現場になるんだろうと思って」

『われに撃つ用意あり』『浪人街』『痴人の愛』『死の棘』…彼らの代表作はそのまま日本映画の代表作。確かにそうそうたる顔ぶれだ。

「そんな大先輩たちが、物語の中では走り回ったり取っ組み合いをしたり。こんな立派な大人がドタバタする話もそうそう無いと思うんですよね(笑)。ご本人たちは大変だったと思うんですが、でもすごく楽しそうで、とにかく軽やかなんですよ。皆さん本当に自然体で、肩に余計な力が入ってないというか。それはやはり、いろいろなことを経験した方ならではの軽やかさなんでしょうね。その場にいると自分も自然と村の住人になっているというか、引き込まれていくような感覚がありました。普段のやり取りも、映画そのままという感じなんですよ(笑)」

 あからさまな言葉で語られなくとも、スクリーン越しに伝わる何かがある。

「一番最初に原田さんとのシーンを撮影したときに思ったんですけど、原田さんはとても優しい目をしているんですよ。善さんというキャラクターがすごくよく伝わってきたし、原田さんご自身もとても優しい方なんだろうなと思いました。撮影当時も皆さんの魅力を感じていましたが、完成した作品を見たら、フィルムにもそれが残っている。しっかり伝わってくる。経験値の違いを感じましたね。あれこれ悩んだり突っ走ったりする私たちを、先輩たちは包んでくれたり、すっとかわしたり…まだまだ同じようにはできないですけど、一緒に芝居ができて本当に良かったと思っています」

 先に現地入りした原田たちは、すっかり大鹿村の“村人”に。

「特に大楠さんは、すっかり村のことを熟知していて、もう“庭”でしたね(笑)。ここは寒いからと、私が泊るペンションの部屋にホットカーペットを入れてくださったり、おいしいパン屋さんがあるって教えてくれたり。そのお店にイチゴジュースがあったんですが、今まで飲んだことが無いというくらいおいしくて。家に持って帰ったんですけど、あんまりおいしくて飲み切ってしまうのがもったいなくて、まだ冷蔵庫にあるんです(笑)」

 東京で生まれ育った人間にも、大鹿村のような土地を“心の故郷”にすることができたら素敵なこと。松にとってそんな“心の故郷”とは?

「私が小学生のころ、父方の祖父母(祖父は八代目松本幸四郎)が鎌倉に住んでいて、夏休みになると鎌倉の家に遊びに行っていたんです。竹林があって、庭で蛇の抜け殻を見つけたり裏山に登ったり、自分で遊びを見つけていましたね。わりと立派な日本家屋で、よく玄関の上がりかまちを女形のようにして上がってみたり、廊下を花道のつもりで歩いてみたりしていました。あれで今の下地を培ったのかも(笑)。家族で旅行なんてほとんどなかったので、鎌倉の家や地方巡業に一緒に行ったりするのが家族のイベントでした。結局その家は祖父が亡くなった時に祖母が手放したんですけどね。そのときは本当にショックで、あの家を東京に移築したいとまで訴えたんですが(笑)。祖母にとっては祖父を思い出すのが辛かったのかもしれませんね。だから本当に、鎌倉のあの家が心の故郷、という感じです。実際に田舎暮らしをしてみたいなと思いつつも、結局私が育ったのが東京ですから、帰るところは東京かな。でもいつかまた大鹿村に行きたいですね。イチゴジュースを買いに(笑)」

 忌野清志郎が歌うエンディング曲が流れるころには、観客もまた大鹿村が“心の故郷”になっているはず。大御所たちと見事なハーモニーを奏でる松たか子の俳優センスを、改めて実感する一本だ。

(本紙・秋吉布由子)

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『大鹿村騒動記』

監督:阪本順治 出演:原田芳雄、大楠道代、岸部一徳、佐藤浩市、松たか子、瑛太、石橋蓮司、三國連太郎他/1時間33分/東映配給/7月16日より全国公開 http://www.ohshika-movie.com
©2011「大鹿村騒動記」製作委員会