企業向け値上げの東電 次は家庭向けの値上げも狙う

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(Photo/AFLO)

 東京電力が先月17日に、企業など大口契約者向けの電気料金を4月1日から平均約17%値上げすることを発表したが、この値上げをめぐり、経済産業省や政府の原子力損害賠償支援機構が反発を強めている。東電の西沢俊夫社長は31日、今秋にも値上げ幅を圧縮する考えを表明したが、4月からの値上げは予定通り実施する構えだ。家庭向け料金の値上げを申請する方針も変えていない。東電には値上げによって収益力を高め、1兆円規模の公的資金の投入に伴い、政府に経営権を握られることを回避したいとの思惑がある。東電不信を強める政府との対立激化は避けられず、機構と共同で3月にまとめる「総合特別事業計画」の策定が難航するのは必至だ。

 枝野幸男経済産業相は31日の閣議後会見で、「根拠の開示や誠実な交渉について、必要があれば指示したい」と述べ、値上げの前提となる「原価」の公表を求めていく考えを示した。

 古川元久経済財政担当相も同日の西沢社長との会談で、「値上げが交渉力に劣る中小企業に与える影響は非常に大きい」と、懸念を伝えた。

 政府と支援機構の東電不信は高まるばかり。機構関係者は「東電は値上げありきで、議論にならない」と批判する。先月17日の値上げの正式発表は当日まで伝えられなかったという。

 経産省が電気料金制度の見直しの検討を進めている最中に値上げを決めたことも、神経を逆なでした。電力小売りの自由化の対象である企業向け料金は、顧客との相対交渉で決まり、経産相の認可の必要はない。しかし、認可が必要な家庭向けと同様に「過大な総括原価」を料金の算定基準としている可能性が高い。

 政府関係者は「なぜ原価を見直している段階で値上げするのか。政府と相談して調整すべきだ」と怒りを隠さない。

 これに対し、東電幹部は「口を挟まれるいわれはない」と、強気の姿勢を崩さない。家庭向けについても見直し後の原価に基づき、値上げを申請する方針だ。

 東電は原発停止で平成25年3月期に代替火力発電の燃料費が1兆円規模で増加する見込み。福島第1原発の廃炉費用ものしかかり、債務超過への転落が避けられない。このため、すでに1兆円規模の公的資金による資本増強を受け入れる方針を固めている。ただ、議決権のない優先株で投入を受け、経営権は守りたい考えだ。値上げの強行突破も、「自主経営へのこだわりの表れ」(関係者)とみられる。

 これに対し、政府は議決権で3分の2を握り、東電の経営を刷新する意向だ。値上げをめぐる不信から政府が強硬姿勢を強めるのは確実。電力の安定供給や原発事故の賠償金の円滑な支払いに不可欠な事業計画の行方は混沌としてきた。