三浦大輔 × リリー・フランキー 「底に流れている心根の腐ったところは一緒(笑)」

『ストリッパー物語』こんなつか作品見たことない!! 7月10日から東京芸術劇場 シアターイーストで開幕

 劇作家で演出家の野田秀樹が芸術監督に就任して以降、さまざまな斬新な企画を打ち出している東京芸術劇場で、またひとつ興味深い企画が立ち上がった。それは「シリーズ企画“Roots”」。60〜70年代の戯曲を現在活躍中の若手演出家が演出をするというもの。その第一弾を務めることになったのが三浦大輔。作品はつかこうへいの『ストリッパー物語』。

 今回この作品を演出することになったきっかけは?
 三浦(以下三)「東京芸術劇場から“つかさんの作品を演出しないか”ってお話をいただきました。最初は『熱海殺人事件』の脚本をいただいたんですが、読んでみて“これは無理ですね”ってことになったんです。そして次に『ストリッパー物語』の話をいただいて、“これならいけますね”っていうことになりました」
 主役の「ヒモ」を演じるのはリリー・フランキー。リリーは三浦のご指名!?
 三「あくまでリリーさんが主役という前提でしたので」
 こんなこと言われてリリーは!?
 リリー(以下リ)「芸劇の新シリーズの一番最初だし、つかさんの作品ということで感触はつかみにくかったんですが、三浦さんと一緒に仕事をしたいという思いがあったんで、断るつもりはなかったんです。でも、どういうふうになっていくのかなっていうのは最近ようやく分かってきました(笑)」
 もともと面識があった。
 リ「三浦さんの映画に出させてもらっていましたし、テレビドラマで僕の原作をシナリオにしてもらったこともあります」
 稽古場での印象は?
 三「間違いなかったなっていう感じです。思っていたとおりだし、それ以上の部分も見せてくれてます。助けられているところもあります」
 リ「三浦君とは会ったことがないときから、“この原作を脚本化するなら三浦大輔に書いてもらいたい”ということをディレクターさんに言っていたんです。そして実際にシナリオになってみたら、すごく才能がある人だなって改めて思いました。空気のディティールをたくさん書いてくれていて、自分の作品なんですけど、“あっ、こういうふうに書けばよかったんだな”って思いましたもん。それって本来小説家が書いていなければいけないことなんですよね。現場ではでんでんさんとも話しているんですが、演出が的確でやりやすいですね」
 妙にうまが合っているように見える。
 リ「底に流れている心根の腐ったところは一緒だなって思います(笑)」
 つか作品に今まで接したことは?。
 三「舞台に関してはつかさんが演出しているものも他の方が演出しているものも見たことはないですね。映画はあるんですが」
 リ「僕は映画は普通に見て育つ世代というか。『蒲田行進曲』とか『二代目はクリスチャン』とか。僕が小さいころってテレビで派手にCMを流していて、映画に興味がない人でも映画を見ていた時代だったんじゃないかと思うんです。舞台は一度、北区つかこうへい劇団の『飛龍伝』を見たことがあります」

2人とも「つかさんの小説は読んだことがない」

 小説は?
 リ「小説も流行っていたんですよね。でも僕はつかさんに限らず、あまり読書家ではなかったもので(笑)」
 三「僕も読まないんですよね」
 では今回初めて『ストリッパー物語』の脚本や小説を読んで?
 三「つかさんに対する興味というよりも、リリーさんがこのセリフを喋って、それを舞台に乗せて表現として立たせることの興味のほうが強いんです。僕なりの演出をすることによって新しいものができそうだなって予感があったというのが正直なところです」
 リ「ポピュラリティーのない人がポピュラリティーのある人の作品をやるほうが面白いと思うんです。だから三浦さんが実験的な作品をリメイクするよりも、つかさんの作品をやるほうが興味深い」
 リリーは一昨年の本谷有希子演出の『クレイジーハニー』に続き、2本目の舞台出演。
 リ「2回も舞台をやるとは思ってなかったですね。一番断りにくい人から誘われちゃって(笑)。本谷さんの作品に出て、三浦君を断るなんて、そんなすごい角の立ち方はないですよね(笑)」
 三浦の稽古場は厳しいという評判も。
 リ「毎日誰か殴られてます(笑)。今日もでんでんさんが鼻血出してました(笑)。3人くらい骨折して帰ってましたね(笑)」
 一瞬信じてしまうほどのジョークがさらっと出る現場。
 リ「僕はストレス感じてないですよ」
 三「僕も全然ないですね。企画の段階からリリーさんありきのお話ですから」
 リ「何にこだわっているかが明快だから、すごく理解しやすい。あっちいったりこっちいったりしないから、一貫して気にしていることが分かるんです」
 それだけ役者が勘がいいと、演出もスムーズに進む。三浦のこれまでのジレンマって多分そういうところ。
 三「そうですね。つかさんの演出を自分の演出に置き換えているんですが、そこが難しいところで、結構無理なことをやってもらっているなとは自覚してます」
 リ「本来、お客さんのほう、つまり正面に向かってけっこう手足を使って言うような台詞をまったり喋る(笑)。なんか自分の重力が分からなくなってくる」
 三「なんとかやってもらってます」
 つか作品となると、どうしてもつかっぽい演出になりがち。全く違うアプローチによって、あらたな評価が生まれる予感。
 リ「僕もそう思います。もともとこの企画ってそういう意図なんだと思うんだけど、今の人がリミックスすることで昔の作品が新しいものに変わって受け入れられやすくなる。エアロ・スミスをランDMCがフューチャリングして、エアロ・スミスの再評価が始まるみたいな。もうその例えが今や古いけど(笑)」
 ストリップは見たことは?
 三「このために何度か見に行きました。その中のことを知れば知るほど、さらに興味を持つようになりました。適当にやっちゃいけないものなんだなとも思いました」
 リ「この作品に出ることが決まってみんなで見に行ったんです」
 三「浅草のロック座に」
 リ「実際に行ってみてストリップの周辺の人たちのにおいって原作とそうかけ離れていないな、今でも同じにおいがするなって思いましたね」
 つかもストリップをちゃんと見て書いたということか。
 リ「ストリップが一番えげつない時代ですからね(笑)。今こんなストリップないでしょう。僕はストリップは見たことがなかったんですが、子どものころにこの当時のストリップの“生板ショー”とか書かれた看板を横目に見ながら学校に通っていましたから。もっと場末なところにいけば作品に近いものが見られたんでしょうけど、一番エンタメなところに行っちゃった。でもショーの内容は変わってもストリップに吸収されていく人種は一緒なんだなって思いました。今日は演技指導でリボンを投げる人が来てくれたんですが、味がありました。リボンさんって呼ばせてもらっているんですけど、リボンさんって人のためにリボンを投げている人ですから、いってしまえば滅私奉公じゃないですか。リボンさんの本業は秘密なんですが、取引相手がリボンさんみたいな人だったら信用できますよね(笑)」

描いていることは普遍的、表現の仕方がいびつなだけ

 原作を読んだ時もそんなどろどろな感じが伝わった?
 三「そうですね。でも描いていることは普遍的だと思うんですよ。その愛情の表現の仕方がいびつなだけ。そこはやっぱりストリップの持つ価値観なんだとは思うんですけども、その価値観が面白いですよね」
 つかと三浦、書き手としてのマインドは似ているような印象を受ける。
 三「偉そうなんですけど、視点というのは理解できるところはあります。舞台表現に対する価値観というか、舞台ってなにを信じればいいのかっていうところは違うんだなって思いますけどね」
 ヒモについて。
 リ「自分にはないものだと思っていたんですけど、考えてみるとずーっと女の人に迷惑をかけ続けて生きている。そしてなんの決め事もなく。俺、ずっと精神的にはヒモだったのかな?(笑)」
 なれる人となれない人がいる。
 リ「才能は必要ですよね。愛情は深くないといけないでしょうし。女の人にいかに献身的になれるかっていう…」
 まめということ?
 三「まめとも違うような気がするんですよね」
 リ「可愛げがないとできないよね。やっぱり母性本能をビンビンにくすぐらないと。俺、そこは全然ないんですよ」
 テレビなどからは母性本能をビンビンにくすぐっている印象を受けるが。
 三「表面的にはそんな感じはありますよね。でも実際に話してみるとリリーさんはそんな感じではないですね。僕はけっこう年上の人にいじめられる傾向があるんですよ」
 リ「多分、僕よりも三浦さんのほうが人間的に多面性があると思うんですよ。きっとそういう人のほうが可愛がられる。三浦さんって書いているものとか作っている作品と本人とがすべて同列ではないんです。難しそうだったり、すごく素直だったり。一度、2人でストリップを見に行ったんですが、ポールダンスとか見てキャーキャー言いながら楽しんでました。そういうところが女の人から見たら多分可愛いって思われると思うんですよ」
 ふだんはキリっとしているのに。
 リ「純粋に騒いでいるんですよ。なんか、ケレンがなくていいですね(笑)」
 今回は今まで三浦の作品に縁がなかった人も多く劇場にやってきそうだ。
 リ「いろんな人に招待状とか送っているんですが、年配の人からの返事が早いですね。つかさんをリアルタイムで見ていた人たちなんでしょうね。とにかく同年代の人の食い付きはすごいです。三浦さんの作品としては初めて客席に年配の方が目立つ作品になるんじゃないですか」
 三「つかさんのファンの方には、“同じ台詞をしゃべっているのにどうしてこんなに違うんだ”っていうクエスチョンを持たれるかもしれませんね」
 根強いファンを持つつかこうへいだけに、どういった反響を呼ぶのか。そして今まではその過激な作風ばかりが取り上げられがちだった三浦大輔が、この作品の後、どういう評価を受けるようになるのか。いろいろな意味で楽しみな作品だ。
(本紙・本吉英人)

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【日時】7月10日(水)〜28日(日)【会場】東京芸術劇場 シアターイースト(池袋)【料金】全席指定 一般5500円、高校生割引1000円、25歳以下 3500円、65歳以上4000円。※高校生割引、25歳以下、65歳以上は枚数限定・前売のみ。(要証明書)【問い合わせ】東京芸術劇場ボックスオフィス(TEL:0570-010-296=休館日を除く10〜19時[HP]https://www.geigeki.jp/https://www.geigeki.jp/)【作】つかこうへい【構成・演出】三浦大輔【出演】リリー・フランキー、渡辺真起子/渋川清彦、安藤 聖、古澤裕介、新田めぐみ、米村亮太朗、門脇 麦/でんでん