おめえに教えてやるよ。人生の勘どころってやつを。『蔦重の教え』著者:車浮代

 55歳のリストラ寸前の崖っぷちサラリーマン、武村竹男(タケ)がひょんなことから江戸時代へタイムスリップ。しかも、転がり込んだのがあの蔦屋重三郎の元だった。蔦屋重三郎は、吉原のガイドブック『吉原細見』ほかいくつものベストセラー本を出版したほか、写楽や歌麿を生み出し、世に出したことでも知られている天才プロデューサーだ。タケはなぜか、23歳の青年としてタイプスリップし、蔦重の元で働きながら、商売のこと、人との付き合い方、成功するための方法、ひいては人生の極意を学んでいく。同書は「時空を超えた実用エンターテインメント小説!」とうたっているように、蔦重の教えは現代に通じるばかりか、世の中の真理をついているものばかり。タケではなく、思わず自分の手帳に書き留めておきたくなる言葉が多い。また、浮世絵、料理、習慣など江戸時代の風俗が生き生きと描かれているので、時代小説としても楽しめる。そしてなんと言っても、浮世絵師たちばかりではなく、そこに登場する人たちが織り成す日常生活が興味深く、あらためて違う視点から歴史の勉強をしてみたくなる。平成の時代に戻ったタケのリストラに怯えやけくそになった人生が、蔦重の教えでどんなふうに変わっていくのか、いかないのか…。歌麿の浮世絵に隠された驚くべき真実とは? 蔦重を知っている人には興味深く、知らない人も楽しめる時代小説だ。



【著者】車浮代【定価】本体1600円(税別)【発行】飛鳥新社