体感せよ!小説で味わう料理の感動『麒麟の舌を持つ男』

 主人公の佐々木充は、絶対音感ならぬ、絶対味覚を持つ料理人。しかし、完璧ゆえに妥協を許さず、その結果自分の店を潰してしまい、今は死期が迫っている人のリクエストに応じ「最期の料理請負人」をやっている。この仕事は、高額な報酬と引き換えに、依頼人が人生の最後に食べたいという思い出の味を完璧に再現するというもの。おおっぴらに看板は出せないものの、それなりに依頼は舞い込んでいた。そんなある日、佐々木のもとに、楊と名乗る中国人から連絡があり、奇妙な仕事を依頼される。それは、第二次世界大戦中に満州で政府の特命を受けた料理人・山形直太朗が作ったという幻のレシピ『大日本帝国食菜全席』を再現するというもの。しかも、その春夏秋冬の4冊、計204のレシピが書かれている『大日本帝国食菜全席』を探すことから始めるという依頼だった。どこにあるかもわからないどころか、その存在すらも疑わしいものだが、これまでとは桁違いの高額な報酬と料理人としての好奇心から佐々木はこの仕事を引き受けた。それをたどっていくうちに彼はとんでもない事実を知るのだが…。『大日本帝国食菜全席』とは一体なんだったのか? そしてそのレシピに隠された秘密とは? 作者はTV番組「料理の鉄人」のディレクターで、同書がデビュー作だという。巻末の『大日本帝国食菜全席』のレシピ名と料理の描写が食欲をそそられる料理エンターテインメントミステリーだ。



『麒麟の舌を持つ男』著者:田中経一【定価】本体1600円(税別)【発行】幻冬舎