東出昌大 カズオ・イシグロの意欲作を舞台化するというチャレンジ。

 舞台『夜想曲集』は、映画やドラマで大活躍する東出が初舞台を踏むというチャレンジの作品である一方で、『日の名残り』や『わたしを離さないで』といった映画化もされた小説の数々を発表しているカズオ・イシグロの意欲作を舞台化するというチャレンジの作品でもある。

 原作は、著者が初めて手掛けた短篇集(2009年発表)。もともと「短篇を書くつもりで書いた」という作品で、『老歌手』『降っても晴れても』『モールバンヒルズ』『夜想曲』『チェリスト』の5篇で構成されている。どの物語にも、ユーモアやノスタルジアが感じられ、不思議さもある。5篇の短篇はそれぞれが独立し、作品ごとにロケーションが違い、作品の中から響いてくる音楽も異なる。ページを繰るたびに、さまざまな魅力的な音楽が聞こえてきて、まるで1枚の音楽アルバムを聴いているかのようにも思える短篇集だ。これは、若いころに一時はミュージシャンを目指したこともあったという著者だからこその発想とも言えそう。

 今回の舞台では、作品のなかから『老歌手』『夜想曲』『チェリスト』の3篇をピックアップし、それを一つの戯曲として再構築している。老歌手とその妻、才能はあるのに売れないテナーサックス奏者と別れた妻、アメリカ人女性と彼女から不思議な指導を受ける若きチェロ奏者……それぞれの短編の登場人物やストーリーが交差し絡み合いながら展開していくという。脚本は、井上ひさし最後の弟子と称される劇作家の長田育恵が手掛けており、舞台で初めてこの作品に触れる人はもちろん、原作からファンも作品の新たな魅力を発見できそうだ。

 演出は、2度の読売演劇大賞優秀演出家賞に輝いた小川絵梨子。多くの名優を輩出した米国アクターズスタジオの大学院の演出学科を卒業後、さまざまな作品を演出し、最も期待されている新進気鋭の演出家だ。

 原作、脚本、演出。そして、キャスト。才能あふれる人たちが集まって作り上げられるこの舞台は、さまざまな化学反応を起こして観客の記憶に刻み込まれる作品になりそう。期待がふくらむ。

 劇場ではさまざまな舞台作品が上演されているが、今年最も見ておきたい作品であることには間違いない。

東出はチェロにも挑戦!
舞台『夜想曲集』

[原作]カズオ・イシグロ(原題:『Nocturnes』)[脚本]長田育恵 [演出]小川絵梨子 [音楽]阿部海太郎[出演]東出昌大、安田成美、近藤芳正、渚 あき、入来茉里、長谷川 寧、中嶋しゅう

【日程】5月11日(月)〜24日(日) 11日19時開演、12日14時開演/19時開演、14日19時開演、15日14時開演、16日13時開演/18時開演、17日13時開演、18日14時開演/19時開演、20日19時開演、21日14時開演/19時開演、22日19時開演、23日13時開演/18時開演、24日13時開演 ※13、19日は休演
【会場】天王洲 銀河劇場
【料金】S席8500円、A席4500円、U-25チケット4500円(全席指定・税込)
【URL】http://hpot.jp/stage/nocturnes