“ミスターSB”宍戸大樹が壮絶な引退試合

シーザー武志会長は宍戸(右)の右手を挙げ、その功績をねぎらった(撮影・蔦野裕)

 シュートボクシング(SB)の「SHOOTBOXING 2016 act.2」(4月3日、東京・後楽園ホール)で“ミスターシュートボクシング”宍戸大樹の引退試合が行われた。

 相手は昨年9月に自らの持つ「SB東洋太平洋ウェルター級」のベルトをかけて戦ったジャオウェハー・シーリーラックジム。延長戦の末、判定で勝利を収めたものの「不完全燃焼だった」という宍戸の意を受け、最後に再度相まみえることとなった。完全決着をつけるべく、宍戸の希望によりこの試合はヒジありの旧SBルールが採用された。

 セミファイナルが終わり、メーンを迎えるにあたり宍戸に送られる激励賞の名前が延々と読み上げられる。あまりの多さに改めて宍戸のここまでの功績がうかがえる。入場曲が流れると会場中から宍戸コールが湧き上がる。南側客席の最後部から客席を縫っての入場。リング下で一礼しリングに上がるといつものように右手を上げて周回する。

 そして20時18分、運命のゴングが鳴る。昨年の対戦後に主戦場のMAXムエタイでスーパーライト級のタイトルを獲得したジャオウェハーは明らかにパワーアップしていた。1R、サークリングしながらチャンスをうかがう宍戸にジャオウェハーのヒジが飛ぶ。その威力に一瞬、宍戸の顔がゆがむ。ヒジありの緊張感がリング上に漂った。2Rになって一気に試合が動き出す。宍戸が放った縦ヒジでジャオウェハーが右目上から出血。一気に会場が沸く。しかしドクターチェックからの再開後、ジャオウェハーが強烈なヒジ打ちを放つと、今度は宍戸が右目上の額のあたりと左の頭部をカット。おびただしい出血量に会場中が固唾をのんだが、試合は再開。しかし宍戸の劣勢は否めない。試合後「5Rはもたないと思った」と語った宍戸が3Rに勝負に出る。ジャオウェハーをギロチンチョークの体勢にとらえると一気に絞め上げる。千載一遇のチャンスだったがジャオウェハーがもがいて体勢が崩れると宍戸にはもう攻め手はなかった。それでもヒジで立ち向かった宍戸だったが、ジャオウェハーが左右のヒジで迎撃。とどめの右ヒジを振り抜くと宍戸は崩れるようにダウン。レフェリーが試合を止めた。20時30分、3R1分14秒、レフェリーストップによるTKO負けだった。

 試合後のセレモニーではそれまでこみあげるものを必死で食い止めていた宍戸だったが、自ら指導するシーザージムのキッズ会員たちがリングに上がると号泣。そして自らの娘たちがリングを降りるときはロープ際まで行って最後まで見届けるなど優しい父親の一面も見せた。

 シーザー武志会長がリングに上がると、しばし師弟2人だけの時間。そしてシーザー会長は「負けたかもしれませんが、最後まで戦い抜いた勇気。私は19年間彼を見てきて、教えてよかったなと思います」と宍戸をねぎらった。

 最後に宍戸は「SBを続けてきて本当によかったと思います。SBで人生の半分を過ごしてきました。これから恩返しをして、あとに続く後輩たちに自分の経験を伝えていきたいと思います。SBを見に来てよかったと思ってもらえる大会、選手を作っていきたいと思います。自分に20年近く付き合っていただきましてありがとうございました」と挨拶し、10カウントゴングを聞く。

 そしていつもの試合後のように本部席のシーザー会長の前にひざまずき頭を下げ、リングを降りた。
 この日の試合をもって宍戸の生涯戦績は82戦58勝(24KO)24敗となった。