【インタビュー】美輪明宏 心の栄養になる歌を届けたい「美輪明宏/ロマンティック音楽会2016」

SPECIAL INTERVIEW 

 舞台のみならず、著書やトークさらにはWEBでの発信など幅広く活躍している美輪明宏。2012年から4年連続出場を果たしている紅白歌合戦でも、圧倒的な存在感で、カリスマ的な人気を誇る。そんな美輪が選曲、構成、演出、舞台美術、照明、衣装を手がける「美輪明宏/ロマンティック音楽会2016」が開催される。2年ぶりとなる東京公演が行われる今回のテーマは「生きる」。聴衆の心を揺さぶる美輪の歌声が心に染み入るように響きわたる。

撮影:御堂義乗

「生きる」をテーマに選んだ理由。

「たとえば道を必死に横切る猫は、車にひかれたくないからそうするわけでしょう。人間も同じで年齢、職業に関係なく、誰もが何とか生きようと頑張っているからこそ、目先のことで精一杯。最近、お客様の反応とか、いただいたお手紙を読んで、ずっとそんなことを考えていました。コンサートで全国各地をまわっていても、皆さん現実が辛いから、心の安穏を求めていらっしゃいます。というのも今の音楽はメロディーもほとんどないし、リズムも全部同じ。歌詞もツイッターソングと言われるように字余りがそのまま曲になってしまっています。昔の歌は小節にきちんと決まりがあり、メロディーがとてもきれいでした。だから歌も覚えやすかったんです。ところが、今はたんなる娯楽、BGMになってしまっているので、何の曲なのか見分けがつきません。しかし、実は逆のものを求めていて、提供する側と与える側の意識が乖離していると思うのです。ですからわたくしは古い唄ばかり歌っていると言われようが、その間を埋めたいと思っています。それに若い方にはとても新鮮に感じるようです。実際、きゃりーぱみゅぱみゅさんが私の芝居を見に来てくださったり、二階堂ふみさんが、雑誌の対談で会いたいと言ってくださったり、若いファンの方が年々増えていてとてもうれしいです」

 今年のプログラムはどのようなものになるのだろうか。

「4月からNHK Eテレの『にほんごであそぼ』に“みわサン”というキャラクターで出ていて、和歌や俳句を紹介しています。子どもたちには難しいかなと思ったのですが、幼い子でもちゃんと理解している。これは素晴らしいと思い、一部では日本語の美しさを伝えて、童心に返っていただける選曲を考えています。ほかには、大変な思いをしたり、どん底に落ち込んだりしているサラリーマンや主婦の方の役に立つような歌。一緒になって落ち込むのではなく、日本人独特のユーモアで、ホッとする歌をお聞かせできればと考えております。四十代のサラリーマンの悲哀を歌った『四十なんて嫌だよ』とか、主婦を称える『昼メロ人生』などをやろうかなと思っています。どちらもオリジナル曲ですが、ユーモアを交え、カリカチュアライズした応援歌です。第2部には、久しぶりにラテンの曲で『ベサメムーチョ』や『老女優は去りゆく』なども入れようと思っています。『ヨイトマケの唄』は、ここのところ立て続けに歌っていたので、今回は削ろうと思っていたんです。でも昔の友人にそれを話したら“ヨイトマケの唄を削ったらあなたに何が残るのよ、何もないじゃない”って言われてしまいました。口の悪いのがいるんです(笑)。舞台美術は、1部はレトロな日本の街並みのような感じで、2部はシンプルに星だけのものにしようかと思っています。というのは、2部はちょっと辛い歌や現実的な歌が多いので、それを中和させるために、金や銀やいろいろな色の星を飾ろうと。星々だって同じ星はないんです。いろいろな星があるのが、自然の法則なのだから。それを知っているから私は大きな顔をしていられるわけです(笑)」

 コンサートを通して美輪が伝えたい事。

「政治家も財界の人も信じられない時代になっている。テレビも人をバカにして笑うような番組ばかりですし、人間を暴力的にさせるゲームなどが溢れていて、バーチャルリアリティと現実との区別がつかない人が増えている。多くの企業が欲のために結果を考えずに、儲かるからという理由だけで、必要のないものをドンドン作っている。そんな世の中ですから、私のコンサートで情緒の栄養補給をしていただきたい。歌詞の内容には悲劇の人もたくさん出てくるので、自分だけじゃないんだっていうことに気づいていただけたら。わたくし、よく言うんです。妬み、そねみ、ひがみなんかに、無駄な労力をお使いなさるなって。うらやましい人なんて世界中どこにもいません。この世にコンプレックスがない人なんていない。お年寄りから小さい子どもまで、容姿や病気、家庭環境、職場での悩みなど、誰しもが必ず劣等感や悩み、苦しみ、痛みを持っている。ツイッターで悪口を書かれても、書いた方の人間性が下劣なだけだから優位に立ってればいい。悪口を書かれた自分を責める必要なんてこれっぽっちもないのだから。そんなところに書き込みをする人なんてまともな人じゃないんだから威張っていなさいって。とにかく、いろいろな世代の方の心の栄養や励ましとなるような歌をお届けしたいと思っています」

 

美輪明宏/ロマンティック音楽会2016
【日時】9月10日(土)〜25日(日)
【会場】東京芸術劇場 プレイハウス
【入場料】S席:9000円 A席:7000円(全席指定・税込)
【問い合わせ】パルコ・ステージ・インフォメーション TEL:03-3477-5858(月〜土11〜19時、日・祝11〜15時)