【インタビュー】土村芳 “ネタバレ厳禁”の話題作『去年の冬、きみと別れ』で最も“秘密”の人物!?

撮影・蔦野裕
 亜希子は岩田演じる記者・耶雲恭介が追う事件の被害者。しかし実は恭介とは、とあるつながりを持つ。

「私が演じるシーンは、ほとんどが岩田さんと一緒だったのですが、映画の中では本当に“つかの間の幸せな時間”なんです(笑)。岩田さんとは初対面だったんですが、まったく壁を作らない方という印象でした。大抵の人は会ってすぐのうちは多少、壁を作ってしまうものだと思うんですけど、そういうものを感じさせない。多分、感じさせないようにしてくださったんでしょうね(笑)。やはり、恭介と亜希子のシーンは2人の距離や空気感も大切ですから。そういうこともあって岩田さんは本当に親しみやすく接してくださっていました。でも私は、ほとんど岩田さんの顔を見ていなくて…」

 亜希子は視覚障害を持つ女性。そのため“視力を感じさせないまなざし”の演技が必要だった。

「“見えるけど見えない”ように焦点を合わせず、ほとんど岩田さんの顔を見てお芝居をすることが無かったので、完成した映像で岩田さんの表情を初めて見て、あのシーンを撮っていたときはこんな表情をしていたんだと感動したんです。こんな感動を覚えるのは私だけとは思いますが(笑)」

 恭介がこれほどまでに幸せなひと時を過ごしていたことを知っているのも亜希子だけ。

「岩田さんもおっしゃっていましたね。同じ映画を撮っているとは思えない、と(笑)。だからこそ、亜希子と恭介のシーンは2人の間に流れているものを大事に演じないといけないなと思っていました」

 撮影前には実際に視覚障害の支援センターでも実地体験をするなど徹底的に役作りを行った。

「日常的に点字を使っている方はものすごい速さで扱うので、当初は点字を打っているシーンの手元だけは吹き替えにしようかという話だったんですが、やっぱりどうしても自分で演じたくて。でも自分でやりたいですとお願いするより、実際に速く打てるようになるのが先だと思い、必死で練習していたんです。そうしたところ、いつの間にか私のままで撮影していただくことになったので、ありがたかったです。白杖も体になじむまで時間があれば手にして練習していました。そこで、初めて感じたことも多かったです。こちらを気にかけてくださる気配だったり。今、よけてくれたな、とかも感じますし。亜希子が歩んできた人生や、亜希子が持っている強い部分も、そういう経験から組み立てていくことができました。点字にしろ白杖にしろ、亜希子にとってはそれが日常ですから、演じる以上は絶対的に必要だと思っていました」