二ツ目さん数珠つなぎ【第7回】柳家ほたる「師匠のようにいつ見ても面白くて、客席を一瞬で明るくする落語家になりたい」


 
そんな前座時代を過ごし、現在二ツ目、9月には真打に昇進する。

「二ツ目になる時は、ただただうれしくて明るい未来が見えているような気がしていました。目覚ましをかけないで寝られるのもうれしかったし(笑)。でも真打昇進がきまってからは、どこか漠然とした不安のようなものがある気がします。私はもともと花粉症なんですけど、今年はあまり症状がでないんです。治ったのかなって思ったんですけど、同じ事が2011年3月11日の東日本大震災の時にもあって…。多分知らず知らずのうちに、緊張しているんだと思うんですね。だから真打が決まってからも、どこか追われているような気がしていて、それが花粉症の症状が出なくなったことにつながっているような気がします。昨日もいろんな準備が全然できていなくて、あせっている夢を見ましたし、心のどこかであれもやらなきゃ、これもやらなきゃと思っているんでしょうね。わさび兄さんは、“真打に昇進するなんて一生に一度だし、楽しんでやったほうがいい”って言うんですけど、全然楽しめない(笑)。ひょっとしたら師匠のようになれるんじゃないかっていう明るい未来も見えるんですけど、これで人生が決まっちゃうんじゃないかっていうマイナスの部分が出てくる。両方見え隠れして、不安と怖さを感じるんです。できる事なら前座時代のあの楽しかった時代に戻りたい(笑)。この世界に入って、だんだん分かれば分かるほど、自分はとんでもない世界に入ってしまったんじゃないかって…。こんな人たちと競いながらやれるのかという思いと、こんな人たちとともにすごい世界に行けるかも知れないという希望の間で揺れている感じ。基本的に前向きなタイプですし、不安とかもすぐに忘れちゃうんですけど、気が付くと崖の上にいた!みたいな感覚になることがあります」

 不安を抱えつつ、師匠や兄弟子に感謝する毎日。

「真打になると、こんなにも周りの人に迷惑をかけるんだって。例えば寄席でトリを取る時は、師匠のスケジュールを抑えさせてもらうので、その日に他の仕事がきても、師匠は断らなきゃいけない。また兄弟子も私の披露目のために、周りの人によろしくお願いしますと頭を下げてれるんです。本当にありがたいんですが、なんか申し訳ないという気持ちにもなります。お客様も応援して下さりますし、本当にありがとうございますという気持ちと、迷惑をかけて申し訳ないという気持ち。でも、それを頑張ろうという気持ちに変えて、みなさんに何かお返しができるようにしたいと思っています」
【プロフィル】 1976年10月5日生まれ、東京都渋谷区出身。2004年、柳家権太楼に入門、前座名「ごん坊」。2008年、二ツ目昇進「ほたる」と改名。今年9月に、柳家わさび、初音家左吉、柳家喬の字とともに真打に昇進、「柳家権之助」となる。【HP】http://yaplog.jp/bakehotaru/【Twitterアカウント】@yanagiyahotaru

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