髙田延彦ロングインタビュー「統括本部長から素顔の髙田延彦へ。その理由と思い」

(撮影・上村彩夏)
「DKCの子どもたちは僕のことは “出てこいや!”のおじさんと思っていますね(笑)」

 今年のRIZIN初戦は4月21日なのだが、その1週間前、髙田は福島に行く。それは2006年にスタート、これまで全国各地で96回イベントを続けているDKCのため。改めてなんですが、これはどういったことをしているんですか?

「レスリングをベースにした体育・体操を取り入れたプログラムで構成しているんだけど、3時間くらい運動するんです。来るのは1~6年生でほとんどレスリングをやったことのない子たち。運動神経のいい子も良くない子も、他のスポーツをやっている子も参加できます。

 野球教室なら野球少年、サッカー教室はサッカー少年しか来ない。DKCはハードルが低くてどんな子が来ても参加できる。無料だし。そこでいろいろな運動をさせて後半はレスリングのタックルなど基本を学んで、最後は先生と試合をする。未経験者ですから子供たち同士では危ないから一切コンタクトさせません。子供たちの相手をする先生というのは開催地の地元の大学とか高校のレスリング部の生徒に協力してもらっている。毎回40~50人がボランティアで来てくれる。子供が200人いれば、それくらい先生がいないと順番待ちが長くてつまらなくなって飽きちゃうんです。せっかくの運動のイベントなんだから3時間ぶっ通しで運動させるのが理想。先生たちが子供たちにタックルを教えて全力で力いっぱいぶつかって先生が倒れてくれるというのを何十回も繰り返し、最後に先生と試合をします。DKCは年8回くらい。1月と8月以外、地方で約月1ペースでやっています。イベントが終わると私も妻もヘロヘロになります。前の晩に入って翌朝8時に会場に入る。マットを敷いたりといった手伝いをしてくれる学生はボランティアで彼らの協力がないと成立しないので感謝しています。医者と接骨医もみんなボランティアでついてきてくれています。

 子供たちは体と体をぶつけ合うことに飢えているみたいで、最初の朝の挨拶の時は不安な感じで、“何をやらされるんだろう” “耳がこんなことに(レスリング選手特有のカリフラワー状の耳)なってる大きなお兄さんたちが大勢いて、何やるんだろう? 怖い”という雰囲気で、8割は親に連れてこられた子なんだけど、それが最後のあいさつの時は、シャワーを浴びたように汗をかいて、目をキラキラさせて、もう終わりなの?って感じになっている。思春期の女の子たちが夢中になってタックルをばんばんやるんですよ。それだけ彼ら彼女らにとって、欲している運動というか生身の人間に自分の体をぶつけていくなんてことはあんまりないから心地いいみたいですね」

 子供はもちろん高田さんの現役時代は知らない。親が髙田さんのファンの世代ですね。髙田さんに会いたくて親が子供を連れてくるというところもありそうですね。

「子どもは僕のことは体の大きい “出てこいや!”のおじさんと思っていますね(笑)。芸人さんだ、って言われることもありますよ(笑)。終わったら魂抜けたようにヘロヘロになるけど心洗われる非日常的な素晴らしい時間ですよ。終わった後の子供たちのキラキラした表情を見ると、またいくぞっていう気持ちになるんだよね。これをきっかけにレスリングを始めた子もいます。小学生の頃に参加して、今は先生のほうで協力してくれる子もいます。そういう子が格闘技とかオリンピック目指したりするのもいいですね。でもレスリングをやらなくてもスポーツを始めるとか運動って大事だなっていうことを分かってくれるだけでもいい。

 レスリングの底辺を広げるためにやっているわけではなく、これをきっかけに体を動かすことがこの年代に成長するために必要なんだということや、いろんなこと学ぶ時間になればいい。例えばレスリングというのは個人競技で戦っている時は1人かもしれないけど、試合をするまではよき練習相手や指導してくれる先生、親がいたり、応援してくれる仲間がいたりと、個人競技なんだけど突き詰めれば、チームプレイだということも学ぶことができますしね」

 
 髙田は格闘技界においてはファンや選手を第1に考え、そこを離れれば将来の日本や地球を支える子供たちやそれを取り巻く環境を第1に考え、今後発言し、活動していくつもりのよう。RIZINではこれまでの選手を温かく包み込むような解説に加え、時にはピリリとスパイスの効いた発言でファンに格闘技の魅力を伝えてくれそう。また「髙田横粂の世相談義」ではこれからも変わらず、世の中のおかしなことに積極的に声を挙げていくつもりだ。どちらも「誰かのために」という気持ちから。
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