【インタビュー】なべおさみが教える人生を娯楽にする方法「必要以上に後ろを振り返るな」

主演したテレビ時代劇「青春太閤記 いまにみておれ!」(昭和45年)の一コマ。秀吉をなべさんが演じ、秀吉の正室・ねねを大原麗子が演じた
――生の舞台で繰り広げられるからこそ、演者も聴衆も磨かれていくわけですね。

なべ「今だったら、「納得いかない」ってだけで訴えちゃう人もいるもんな。でも、あの時代は、体験したことを自分の中で落とし込んで、自分の気持ちに自分自身で決着をつ けるしかなかったの」

――1つ教えていただきたいことがあります。なべさん自身、たくさんのスターを見てきたと思うのですが、共通する点って何だったのでしょうか?

なべ「前ばっかり見ている点だね。スターは、後ろなんか振り向いている暇がない。つ まりポジティブなんだよ。これって、芸能界に限った話じゃなくて、良い風が吹いている人って、やっぱり前を向いているんだよな。ヌードだと思って力士の写真をつかまされ て、腹が立ったとしても、「見事だったな」と思うか、「ちくしょう!」としか思わないかで終 わるのとでは、得るものが違うよね。何でも前向きに考えろ、ってわけじゃなくて、必要 以上に後ろを振り返るなってことだよ。後ろを振り返る癖がつくと、後出しジャンケンよ ろしく往生際が悪くなっちゃうよ。平成3年に、息子の替え玉受験騒動があって、すべての仕事がなくなった俺が言うんだから、説得力があるだろ?(笑)」

――ありすぎですよ(笑)。

なべ「ワハハハハ! 俺は、5月2日に80歳になるんだけど、それこそ人生これからだと思っているんだ。令和になって、翌日に誕生日を迎えるということも心機一転できるしさ。平成3年から海の底にいるんだから、令和にかける思いは強いよ!」


――昭和どころか平成も終わってしまう。でも、昭和のレジェンドであるなべさんには、いろいろと発信していってほしいです。

なべ「俺は、そもそも昭和39年の5月1日にデビューして、昭和49年5月1日に渡辺プロダクションを辞める。で、平成3年5月1日に替え玉騒動の記者会見して、そこで全てのレギュラー、CMを失い、真っ逆さまに落ちていく(笑)」

――5月1日との因果がすごい!

なべ「そうなんだよ! 今年の 5月1日は令和になって、次の日に80歳になる。それ こそ後ろなんか振り向いている場合じゃないの。80歳になるけど、嫌なことなんてたくさんある。だけど、嫌なことにいちいちヘコんでたら、疲れちゃうよ! それこそ良くない方向にどんどん転んでいっちゃう。そういうときに娯楽に助けられたりするわけじゃない。そこで得た気持ちを、どうせだったら前を向く原動力にしてほしい。そうなってほしいという思いで、興行師をはじめ、裏方でエンターテインメントを届けている人が、昔も今も いるってことだよ。前を向く人が増えれば増えるほど、日本も、日本のエンタメ業界も、 元気になっていくんじゃないかなって思うんだよな」



(取材と文・我妻弘崇)
『昭和疾風録 興行と芸能』(イースト・プレス)
なべおさみ

「興行師」とは一体どういう人たちか。戦後の昭和20年代、30年代をピークに、各地でショーや舞台を大衆に提供し、やくざとも密接な関係を保って財力・影響力を誇りながらも、昭和40年代に入ると徐々に姿を消していった人たち。戦後日本人の心を癒やした「娯楽」を、どんな人物たちが支え、作り出していったかが分かる一冊。

また5月11日、お茶の水カルチャーセンター411 号室にて「日本文化に溶け込んでいる ユダヤ文化」について、なべさんが講演。「よろしかったら、どうぞお越しください!」(なべ)

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