【徳井健太の菩薩目線】第26回 令和になってアイドルを目指す人は減る

夢が叶わなかったことは、全然ダサくない



 なりたい職業としてYouTuberが上位に名を連ねる時代だからこそ、俺は学校の義務教育の中で、性教育とともにYouTuberやアイドルとして成功することが、どれだけ大変かを教える道徳のコマを作るべきだと感じている。それこそ学校に行かなくていいなんて小学生YouTuberが現れてしまったように、小学生になるよりも早い段階でYouTuberや有名人を目指せる時代になってしまった。義務教育が始まる前に、YouTuberやアイドルを目指すように仕込ませることができるんだから、普通に考えると子どもにとっては恐ろしい時代だ。「世の中ってそんなに甘くないよ」ってことを、改めて道徳の時間で子ども自身が考えることができるなら、少なくても学校に行く意味はあるんじゃないの?って思う。

 日常生活に必要な道徳観は親が教えてしまう。良い親であれば良い道徳観を、悪い親であれば悪い道徳観を。となると、学校では質に左右されない道徳観を教えてほしいと、一人の親である俺は願う。

 しくじり先生があれだけ面白かったのは、出演者の失敗談が面白いだけではなく、自分が勝手に思い込んでいる知ったかぶりの世界に対して、襟を正してくれる面白さも相まったからだと思う。大人ですら、知られざる世界の失敗談や実態を耳にして、「あ~そうだったんだ」って感じるんだから、子どもの時点でそんなことに気が付けるはずがない。親が教えることができない社会の実態や、もてはやされている人気職業の現実などを、道徳の授業で教えてほしい。

 道徳の教科書に、特別な人間が、特別な場所で輝いていますなんて話はいらない。偉人がいかにすごかったか、なんて話しもいらない。“普通”が、どれだけ尊いことかを教えてほしい。夢を叶える人や特別なことを成し遂げる人なんて、1%以下の世界。そんな世界を道徳観として教えたところで、夢に引きずられるだけだよ。

 井筒和幸監督も言っていたけど、夢破れて地元に帰ってきたとしても、そこで頑張って暮らしていることのカッコよさこそ、きちんと伝えてほしいんだよね。夢が叶わなかったことは、別にダサいことじゃない。当たり前。そこから、もう一踏ん張りすることのすごさや尊さを、知ってほしい。もちろん、そういう社会にならなくちゃいけないとも思う。

 アイドルやYouTuberを目指すにしても、きちんとサイドミラーとバックミラーを見ながら前に進めるようにならなければいけないよね。今の状況は、まるでチキンレース。令和になって、まともな競争になることを願うばかりだよ。

※【徳井健太の菩薩目線】は、毎月10日、20日、30日更新です
【プロフィル】とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。
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