サラリーマンは辛苦な稼業と来たもんだ『セミ』【著者】ショーン・タン

『セミ』(河出書房新社)
 大人向け絵本作品『アライバル』や『ロスト・シング』など、独自の世界観を緻密な絵と構成で表現し、世界中に熱狂的なファンを持つショーン・タン。5年ぶりの最新刊は擬人化された「セミ」を主人公に、一サラリーマンの日常の悲哀をつぶさに描く。セミの仲間には、いわゆる「素数ゼミ」と呼ばれ、周期的に大量発生する種類が存在する。そうした大量のセミたちにも、地中にいる間はこのような悲喜こもごもの世界があるのだろうか。

 物語の終盤、いよいよ「セミ」は定年を迎え、旅立ちの準備をはじめる。フランツ・カフカ作『変身』の主人公・ザムザ氏は悲劇の結末を迎えたが、本作の主人公である「セミ」の衝撃的な展開、そして奥付に添えられた日本人にはなじみ深い俳句が静かな余韻を残す。
『セミ』(河出書房新社)