元遊郭に泊まろう! 八戸市にある「新むつ旅館」の旅情感がすごすぎるワケ


 
二階へと続く「Y字階段」の素晴らしさったらない。二階の「空中歩廊」と相成って、見事な空間演出にため息が出る。昔の職人の建築技術、そして“魅せる”ことへのこだわりは、現代のインスタとも相性抜群。色褪せない、とはこのことだ。

「“新陸奥楼”という名で明治32年に造られ、遊郭として営業したのよ。昭和32年に売春禁止法が施行されたことを機に、旅館「新むつ旅館」として再出発したの」
 
 そう優しく教えてくれるのは、創業から数えると5代目にあたる女将・川村紅美子さん。今は亡きご主人さんのお義母さんからバトンを引き継ぎ、宿を切り盛りしている。紅美子さんが嫁いだのは、1962年(昭和37年)のこと。ご主人である久雄さんは、農林水産省の外郭団体でJAS規格を扱う日本冷凍食品検査協会に勤務していた。

「実家が旅館だとは聞いていたけど、初めて来てみると、どうも旅館にしては雰囲気が独特なのよね。格子もあるし……これって遊郭じゃないの!? ってびっくりしたわよ」

 サービス精神あふれる紅美子さんは、この宿がどんな変遷を辿ってきたのかを気風よく教えてくれる。「父親がことあるごとに《職業に貴賤はない》って言っていたから、最初から遊郭だと知っていても嫁いでいたと思う」と笑い、当時を振り返る。