元遊郭に泊まろう! 八戸市にある「新むつ旅館」の旅情感がすごすぎるワケ

格子窓が特徴的な「上ミセ(張り見世)」。いまは休憩所だが、かつてはここに娼妓たちが並んでいた
 昭和の時代、“元遊郭”は負の遺産でしかなかった。「ここにあった元遊郭の旅館は、後継ぎがいなくて自然に消滅していくところも多かったわよ」。また、遊郭の面影を少しでも払しょくするために改築してしまった旅館もある。この袋小路には、時代の葛藤がつまっていたのだが、いまはもう、新むつ旅館しか残っていない。

 紅美子さんが、自ら宿を支えることを決意したのは、1978年(昭和53年)。39歳のとき、八戸へ移住する。

「主人は定年したら八戸に戻るって言っていたの。それに主人は、ここの長男で、私は長男の嫁だから家業を継ぐことは当時の常識だったの。それで私と娘だけで一足早く八戸に戻ってきて、この宿を切り盛りしたのよ。やってみたら、結構、旅館業が向いていたの! アハハハハ!」

 紅美子さんの話す姿は、とても快活だ。心地よい。話を伺うと、生まれは東京の深川。祖父は、背中一面に文覚上人の彫り物を施した江戸消防火消しい組の頭だった、というから恐れ入る。高校卒業後、日本橋室町に住んでいた祖父母と同居しながら、東京八重洲口にあった会社に勤めていた紅美子さんは、東京っ子であり辰巳っ子。生粋の江戸のDNAが流れる女将が、八戸の元遊郭の旅館を切り盛りする――なんてドラマティックなんだろう。何度、「面白い!」と膝を打っただろう。