齊藤工がオンラインの可能性と映画界への想いを語る「今のこの動きによって、最終的にまた劇場で至福の映画体験をしてもらいたい」

こちらは「テレワークセッション」の模様

より良い状況で作品を世に送り出したい


――上映後SNSなどで「これを劇場で体験したい」という声が多く寄せられていました。坪井副支配人も、劇場へ呼び戻す効果への期待を示されていましたね。

齊藤「ミニシアター・エイド基金やSAVE the CINEMAの活動を支持する方にとっては、やはり映画館に行ける世界を取り戻すことがゴール。その文脈では“仮設の映画館”があくまで“仮設”であるように、オンラインは劇場に帰るための繋ぎという考えになる。いっぽうで、SHMTのトークでいみじくも坪井さんがおっしゃったように配信に映画が支えられている状況でもある。ふと思ったのが、僕自身もしいきなり“明日から、これまでどおりの仕事が始まります”と言われてもそれに耐えうる心の体力がないというか、準備期間が必要だと思っていて。ある種、人間が持つ適応能力が働いているような。これを言い換えると、ステイホームの間に配信で映画を見続けることによって、映画館という空間が持つ価値は薄れかねないのではないか。そこまで極端ではないにしろ、映画を取り巻く環境が今まで通りではなくなっていくことは肌感としてあります。だからなおさら、映画業界の行末を、その渦中でしっかり見届けたいんです」

直井「実は、コロナ禍の勢いでプレオープンまでたどり着いたけれど、僕としてはオンライン映画館の立ち上げはゆくゆく必要なものとしては考えていたことです。齊藤さんの指摘とも関連しますが、近年の地震や台風の被害を振り返っても、コロナがなくても、このままでは気候条件や天変地異によって劇場に行くことが困難になる状況を想像せざるを得ない時代を、僕たちは生きています。ですからアフター・コロナも通常興行として映画を上映していく場として先を見据えています。コロナウイルスの影響も長期化する見通しですし、新しい生活様式も掲げられましたので、劇場公開が成立する状況になっても共存していくつもりでやっています。『マリッジ・ストーリー』などのように、リアルな劇場と同時に配信が成立している事例もありますし」

――劇場は、いかに再開するかが次の課題でしょうか。これから地域によって段階的に制限がやわらいだりと状況も異なってきます。

直井「目下、6月公開予定となっている映画の準備で頭を悩ませています。というのも外出ができてミニシアターも開いている状況だからといって、果たしてどれくらいお客さんは戻ってくるのだろうか、と。公開できても作品にとって好機とは限らないんですよね。1週間限定上映を予定していた作品もあるので、たとえば劇場から“再開します、でもまだ土日は休館します”と言われてしまったら興行に大きく影響します。ですから判断を委ねられているからには危機感を強く持って公開プランを立てなくては。とにかく配給者の僕としては、“より良い状況で作品を世に送り出したい”ということに尽きるんです。だからオンライン上映も“映画館は最高”だけど、こういう形もあるという可能性も示していきたい。そういう意味でフットワーク軽く動けるインディペンデント配給の強みを生かして、齊藤さんのような形で新作を発表してもらえる場になったり、イベント・コンテンツを通して、自分たちが今までやってきたことを試し、それに共鳴してくれる配給会社さんや、自主制作の人たちと組んで仕掛けていきたいです」

――齊藤さんの『TOKYO TELEWORK FILM』は今後どう進化していくのでしょうか。

齊藤「『COMPLY+-ANCE』では“完パケ”の概念が壊されたというか。公開後に生のイベントを通して映画が進化していき、その延長線上でオンライン上映まで流れ着きました。そういう作品の特性上、あたらしく立ち上げた『TOKYO TELEWORK FILM』とあわせてアップデートし続けることで今の時代のフィルターとして機能していくのではないか、と。『TOKYO TELEWORK FILM』は今フェーズ1の〈テレワークセッション〉の過程にいて、先日第二弾を撮影しました。フェーズ2、3と重ねて映画作品へとつなげていきたいというプロジェクトですが、実はコロナ禍バージョンの『COMPLY+-ANCE』をやりたいと思っています。この状況で新たなコンプライアンスも生まれていますし、テレワークは今までにないカルチャー面での広がりを見せています。緊急事態宣言も現時点で5月31日まで延長になりましたけれども、そういう日々のニュースとオンライン上の出会いの距離感を連動させて、作品に組み込みたい。というのも最近、収録した番組を見たら出演者の話す内容でそれがどの時期に撮られたか分かるくらい、みんなが“コロナ時間”の時計を併せ持っているので、その時計の針の動きを意識して作品を生むのが僕のひとつのテーマです。また、行定さんの作品もそうでしたが、テレワークで制作するのって役者の負担が増えるんですよ。実際ほとんど自撮りですからね。ZOOMなどのオンラインサービスの画角のなかでいかに自分を表現するかも問われています。だから俳優も受け身ではいられない。そういうなかでの共犯関係を築いていきたくて。熱をもった状況である以上、それは冷めるかもしれない。そんな一時的なことならなおさらいち早く“共犯者”たちとしっかりエンターテインメントをやりたいです。“あの頃なにしてた?”と問われる未来があるはずなんです。休む時期であってもいいし、僕自身はこの曲がり角のようなタイミングに訪れた修行期間だととらえていて、そこに関わるひとたちの意思を加算しながら、起きていることをタイムリーに感じとって落とし込みたい。このとき映画が作られていたことに意味があったのか? と検証されることも見据えて、今、作っておきたいんです。事態の終息後に『映画』というものがよりタフになるための期間というのかな。だから僕は“進化します”と、宣言しておきます」
STAY HOME MINI-THEATER powered by mu-mo LIVE THEATER 第二弾は5月17日(金)~19日(日)、22日(金)~24日(日)開催。2週にわたり5作品を上映する。
公式サイト:https://stayhome-minitheater.com/

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