【徳井健太の菩薩目線】第63回 フッとわいた言葉が素直に出せるようになれば、伝わりやすくなるのかな



 あつむ(桂三度)さんから、「(徳井君に)足りないものを挙げるとしたら“ベタ”かな」と伝えられてから、ずっと考えている。コロナ禍で仕事が減る中で、それを行動に移せないことがもどかしい。依然、霧は晴れない。

 なんとなく感じているのは、“フッとわいた言葉が素直に出せるようになればいい”ということ。そういう観点で物事を見てみると、あれもベタなのかも、これもベタなのかも、と感じられるようで楽しい。

 俺たちは、(株)Looopの「再エネどんどん割 北海道節約応援アンバサダー」に就任することになり、4月の発表会に登壇した。ありがたい。その際、コメントを求められた吉村は、「北海道にいたときは電気代に苦労して」などなど、ボケるでもなく普通の話をし続けていた。そこに感心してしまった。よくよく考えると、食レポの「肉の甘味が~」とか「水分がちょうどいい」といったコメントにしたって、普通じゃない。俺はそんなことを思いながら飯を食ったことがない。だから、そんな言葉はわいてこないのだが、吉村はそういう言葉がフッとわいてくるのだろう。しかも、それが共感として成立するのだから、考えれば考えるほどベタの体現者なのかもしれない。

 ベタってのは、「万民が分かるような最大公約数的なもの」だろうから、ちょっと見方を変えると、ボケを狙いにいくような言動ではなく、その人から自然にわいて出てくる言動にこそ整合性があるのかもしれないなと思う。俺は、何かと発言する際にあれこれと考えてしまう癖がある。“Don’t think, feel”というブルース・リーの金言は、俺にとっては「ベタへの道しるべ」なのかもしれない。無駄に何かを考え込んでしまった時点で、届くはずだった言葉は届かなくなる。届きづらくなるということは、結果的に万民が理解しづらくなっているってことだからね。

 一方、周りの目を意識すると、やはり考えてしまう。人間の性だ。アイドルのイベントで、俺がMCをするとする。会場にいるお客さんにも楽しんでもらいたいと考えれば考えるほど、素直に言葉は出づらくなり、ベタとはかけ離れていく。スッと言葉を出す意識と周囲を気にかける意識、この二つは相反するもので、脳のリソースを同時に使うようなもの。達人クラスの領域だ。MCもこなせるトップレベルの芸人は、相克関係にある二つのアプローチを同時に発動させているのだから恐ろしい。なおかつ、ここに「人を笑わせる」という役割まで加わるのだから、脳みその構造をのぞいてみたくなる。

 俺はたびたびサイコパスと呼ばれることがある。すべては、10年前の俺の言動の影響だと思う。『(株)世界衝撃映像社』に代表されるバーサーカーのような振る舞いが、俺に一つのキャラクターを与えたことは間違いない。

 ベタを演じるということは、そういう役割を演じるための衣を「着る」ことで成立するかもしれない。でも、俺のように狂った鎧を着てしまった人間は、これ以上着込むことは難しい。となると、素直に「脱ぐ」ということが、俺にとってはベタへの近道なのかもしれない。俺に限った話ではないと思う。誰もが社会的な役(割)があると思うんだけど、何か新しい役(割)を求められたときに、新たに「着る」ではなく、今着ている何かを「脱ぐ」という考え方はあってもいいんじゃないかなって思うわけだ。脱ぐと言っても、袖だけカッティングするといった脱ぎ方もある。

 何事も構えすぎると良くない。シュートは上手いのに、パスを受けるのが下手な人っているよね。受けるのが下手、というよりは、シュートをすることに全身全霊を注いでいるから、パスをもらうと突然体勢が崩れてしまう人。周りから、「決めろー!」と言われることで、信じられないくらいゴールの枠にボールが飛ばない。それもまた、素直に言葉が出せなくなることに通じるのではないか。シュートを打つことだけを考えていると、素直に言葉が出てくるような気がする。

 俺は、素直に言葉を発するためにどうすればいいんだろう。あれこれ考えているものの、コロナ禍で現場の数が減少しているから、実践できない。もどかしい。そもそも、これって芸歴20年目の悩みなのか――とも思う。また、ウィズコロナの世界の中で、ベタの価値観そのものが変わるかもしれない。そういう過渡期の中にあって、志村(けん)さんのコントの面白さは、この先もずっと変わらないだろうし、いつの時代の子どもたちもゲラゲラと笑い続けるんだろうなと、素直に感じちゃうんだからすごいよね。ベタを考えることは、何か大きなヒントにつながると思うんだ、生き方や働き方を考えるうえで。

※【徳井健太の菩薩目線】は、毎月10日、20日、30日更新です
◆プロフィル……とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen
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