木村英智氏に聞く、世界をめぐるアートアクアリウムが日本橋に常設化した理由

アートアクアリウムの象徴的な作品「花魁」

日本橋にできた「江戸の花街」を体験



「アートアクアリウム美術館」は、最寄り駅となる東京メトロの三越前駅からほど近くにある。大小の医薬品メーカーのオフィスビルが立ち並ぶなかで、趣味のいい真新しい黒い外壁が際立つ。外観はもとより、すべてがアートアクアリウム美術館のために作られた空間だ。

 これまでのどの展覧会より大きな空間には、新作、そしてこれまでの作品を新たなアプローチで展示する。アートアクアリウムの顔でファンも多い作品『花魁』からなる『花魁道中』は、これまでの「圧倒的」や「感動的」なレベルを軽く超えてくる。

「『花魁』はアートアクアリウムの象徴ともいえる作品です。アートアクアリウムは江戸の花街であると言っていて、『花魁道中』はそのエリアとして形作ることができました。新しいものをこれはすごいなって見ていただくのはもちろんですが、知っている作品がこうなってっているのかと楽しんでいただける世界観になっていると思います。初めて見る人も、何度目かの人も喜んでもらえると思います」

 それぞれの作品のすばらしさは敢えていうまでもないが、アートアクアリウム美術館では以前と比べてより楽しめるポイントがある。それが「体験」だ。

「これまでもやってきたことではあるんですが、今回はより体験型であることに力を入れています。鑑するのではなく、アートアクアリウムの世界に入っていくスタイルです。これまでよりもスペースもあるので、それぞれ世界観をエリアごとに表現してて、来ていただいた方には体験をしながら、いくつかのエリアを抜けていきます」

 体験型の実現は常設化だからできたことという。

「常設であることは作品を作るうえで確かに重要なところで、作品への影響もあります。わかりやすいところだと、作品の大きさとかね。ただ、なかでも大きいのは照明や音響です。巡回するときの準備期間はどの会場でも、ゼロからオープンまで3日間ぐらい。照明や音響は最後になるので、オープン前日の夜中にやることになって、正直あまり時間はかけられませんでした。だけれど、今回はもう少し時間がありますから、システムを組むところから、じっくり時間をかけられています。体験型という部分では大事な部分です」

 見るよりも、味わってほしいポイントもある。それがアートアクアリウムの生態系。ひらりふわりと体を動かす金魚たちがアートであり続けるための生態系がずっと維持されている。

「アートアクアリウムの一番すごいところは、そこなんですよ。発想と表現をほめていただくのはすごいうれしいですけど、生態系を作り出し、維持できる。特殊なやり方で、中国の世界最大の金魚を生産する会社の社長さんが、“木村にしかできないから、中国でやるときにはパートナーにしてくれ”って言ってくれました。今はスタッフも7-8人いて、僕が自分で水を替えたりしなくてもよくなりましたけどね(笑)」