新型コロナの長期化で急増も…「うつ病」とはどんな病気?

 新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する中で、メンタルヘルスの不調を訴える人が急増している。秋田大学が学生にアンケート調査を行ったところ、1割程度の学生に中等度以上のうつ症状が見られたとの報告も。「うつ病」とはどんな病気でどのような症状があるのだろうか。公益社団法人東京都医師会副会長を務める「ひらかわクリニック」(八王子市)の平川博之院長に聞いた。
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する中で、メンタルヘルスの不調を訴える人が急増している(写真はイメージです)

「うつ病」とはどんな病気?



「うつ」といっても気分障害による「うつ病」から、失恋や失職といった心因で現れる「うつ状態」まで、さまざまな「うつ」があります。「うつ病」が増えていると言われていますが、どのレベルの「うつ」が増えているかは不明です。いずれにせよ、さまざまな理由から気分が憂うつ、自信がない、意欲が湧かないといったうつ症状を訴える人が増え、精神科医療機関を受診することに抵抗が少なくなったことも「うつ病」が増えた要因と思われます。

 表面的には「うつ病」でも「うつ状態」でもうつ症状に大きな差がないため、一般の方には症状だけで「うつ病」かどうかを判断するのは難しいでしょう。ですから、インターネット上にアップされている質問票だけで自己診断するのは危険です。

「うつ病」の発症要因は?



 人事異動や転居、結婚、出産といった環境や対人関係の変化、失恋や死別、倒産といった喪失体験、過重労働や受験勉強などの心身の疲労、がんなど難治性の病気の発症、几帳面で生真面目、責任感の強い性格などが相互に作用しながら発症します。もちろん、明らかな原因がなく発症することもあります。

 また、必ずしも嫌なことばかりでなく、うれしいことや楽になったことで発症する場合もあります。たとえば「昇進うつ」といって、困難な仕事をやり遂げて、社長賞の表彰式当日に奈落の底に落ちたような真っ暗な気分に陥ってしまったという例がありました。無我夢中で我が身を顧みず目一杯頑張り続け、気づかないうちにすべての心的エネルギーを使い切ってしまったのでしょう。

「荷下ろしうつ病」もそれに近いもので、重い荷物を持って登山をしていて、肉体的には限界にきているにも関わらず、気力だけで登っているとします。リーダーから休憩の指示が出たので荷物を下ろし、この間にトイレに行こうと立ち上がろうとしたら腰が立たない状態を指します。荷物を下ろして楽になったとたん、本来の自分のダメージを知るわけです。このように「うつ病」の発症にはいろいろな要因があります。

「うつ病」の症状は?



 3つに分けて考えると分かりやすいと思います。

 ひとつ目が「気分のうつ」です。憂うつな気持ち、気分が晴れず、悲観的なほうにばかり考えが進んでしまう。自己否定的で罪業感(自分の行為や内面的な心の動きに罪悪感をもち、自分自身を責めること)に苛まれ、気分全体が落ち込みます。1日のうちの朝から午前中かけてが特にひどく感じます。2つ目は「意欲のうつ」です。自分のところだけ引力が強くなったように、身も心も重く感じ、動くことが出来ません。仕事や家事などもできず、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような感じだと表現する人もいます。3つ目は「体のうつ」です。頭痛、頭重感、疲労感、口渇、吐き気、腹痛、味覚障害や食欲の低下、便秘、睡眠障害などさまざまな身体症状が出現します。現れ方に濃淡はあるものの「うつ病」ではこれらの3つの症状がおおむね存在しています。

 診察の際に「気分のうつ」症状では自責の念、罪業感に注意を払っています。というのも自殺の引き金になりやすい症状だからです。「意欲のうつ」症状で注意を払うのは「好きなことすらしたくない」といった訴えです。好きだった飲み会に行きたくない、お気に入りの曲を聴く気もしないなどの症状は回復過程でも目安になるからです。「体のうつ」症状で注意することは、さまざまな体調不調の訴えを気のせいだと片付けず、真摯に耳を傾け、苦しさや辛さを共有する姿勢です。
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