徳井健太の菩薩目線 第77回 存在意義は、強迫観念と表裏一体。芸人のコメントは大喜利だ。



『ワイドナショー』が大好きだ。俺なんかが言うのもおこがましいけど、松本さんのコメントは類を見ない角度で鋭く、みなと違う意見なのにボケているわけでもなく、それでいて面白い。

『ワイドナショー』を見ていて、ふと気づいたことがある。演者全員分のエンディングトークを絶対に使うんだ。生放送だったら、「今日はどうでした?」なんて具合に振り返って、その日の出演者全員のコメントを差し込む――、ことはありえる。

でも、収録番組の場合、振り返ったとしてもせいぜい使われるのは一人くらい。全員分が使われるなんてことはありえない。「どうせ使われないんだったら」と思って、俺はいつもカメラさんが笑ってくれればいいや、とエンディングに似つかわしくないことを言ってカットされていた。ところが、『ワイドナショー』は収録にもかかわらず、毎回東野さんが全員に振って、そのコメントが使われる。

ここからは俺の想像の話。

この最後のコメントって、もしかしたら演者に対する“フォローの場”なのではないかと。「あのときはあんな感じで話してしまったけど変な風に伝わってたらやだな」、そう思ったのなら、そのモヤモヤを回収させてあげるために、全員に聞いているのではないかなって。

たとえそれが、「楽しかったです」といった当たり障りのないコメントだったとしても、『ワイドナショー』では、エンディングにきっちり使われる。裏を返せば、『ワイドナショー』に出演するときは、最後の最後にパンチラインを用意しておかなければいけないということ。最後まで気が抜けない番組。エンディングトークの真髄を見るという意味でも、『ワイドナショー』は面白いんだ。午前中に放送している番組とは思えないほど、ヘビーカロリー。まるで深夜番組を見ているときのような恍惚を覚えます。

コメントって、実は非常に難しい。例えば動物の VTR を見たとして、「可愛い」と発したタレントさんがいて、次に誰かがボケて、3人目に俺がいたとする。もう言うことがない、というか、やれることがない。4、5人目ともなると苦行だ。

ところが、松本さんはどんなニュースだろうが、目の前で3発ものコメントが飛び出しているのに、かぶらずに粛々と語る。そして面白い。それを毎週何回もやっている…… さすが大喜利の達人だなと思ってしまう。

芸人たちがコメントを求められるとき、できれば前半で発したい人は多いと思う。Aさんが差し支えの無い一般的なコメントをいう、キャラの立ったBさんがエキセントリックなコメントをいう、伏兵のCさんが意外に鋭い意見をいう、Dさんがおバカな意見をいう。そういった状況下で、もしもトリを務めるとなれば、恐ろしいほどの頭の回転力と構成力が必要になる。

芸人がコメンテーターをすることに対して、いろいろと石を投げたがっている人もいると思う。でも、出演者3人が全員似たり寄ったりの同じ意見を口にすると、テレビ番組としては成立しなくなる。それを理解している芸人たちは、コメンテーターという役割を与えられたとき、大喜利的な頭の回転力を発揮するしかない。

人と被らないように、自分らしいコメントをいう――。ときには、その自分らしささえも捨てて、「芸人なんだからまともなこと言ってもしょうがないでしょ」なんて割り切って、炎上覚悟で発言できる人は、やっぱり重宝されるに決まっている。3番手、4番手で振られた芸人のコメントには、芸人としてのプライドが宿っている。そういう視点で見てみると、ワイドショーや情報番組に登場する芸人の発言が、少し違って見えてくるかもしれない。

誰だって“仕事をしている感”がないとさびしい。そつのないコメントを言うこともできるけど、それではなんだかギャラ泥棒のような気がして、気が引ける。だから、芸人としての存在意義のために、無理してボケて、怒られて、カットされる。芸人は悲しい生き物。 『相席食堂』は、本当だったらカットされるだろう、芸人たちの死闘を垂れ流してくれる。最高に決まっている。

徳井健太を使っているということは、何か意味があると思いたい。それに応えないと、仕事をした気持ちになれないというか。もし仮に、俺がデヴィ夫人と2人でロケに行く企画があったら、 俺は絶対に「なんで俺だったんだろう」と考える。勝手に強迫観念。キレさせた方がいいのかな、かみ合わないことを期待しているのかな……そんなことを堂々巡りした挙句、繰り出した決死のパンチがカットされる。幻の右。

そんな迷いを捨てた人が売れていくんだろうな。 もしくは、迷いを持ちながら、もう一本の刀を使いこなせる二刀流を会得するか。でも、みんなが見えるところで、短刀一本、つかに手を置いていたい。膝に手をおいていたら、斬られて終わり。死に体。存在意義って、強迫観念と表裏一体だと思う。

徳井健太の菩薩目線は、毎月10日、20日、30日に更新
【プロフィール】
1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw
<<< 1 2