村上春樹に親近感!?売り切れ続出「文學界」ジャズ特集をジャズ喫茶で語る

「文學界」11月号で作家の村上春樹にロングインタビューを敢行した村井
村井「『フォーカス』が出たあとすぐに『ジャズ・サンバ』が出て、スタン・ゲッツ=ボサノヴァの人になっちゃったので、みんなこのアルバムを忘れちゃったんだと思うよ。村上さんが面白かったのは、とにかく中古レコード好きなんですよ」

後藤「村井さんが聞き手をやったから良かったんだよね。明らかに春樹さんが気を許してるじゃない?(笑)村上春樹って毎年秋になるとノーベル文学賞を獲るんじゃないかと話題になるような大作家で、実際に小説を読んでもむちゃくちゃ上手いと思う雲の上の存在。ところが、これを読むとただのジャズ好きのおっさんというか(笑)。僕らジャズ喫茶界隈ではごく普通にいるおじさんなので、すごく親近感を感じましたね。アナログ盤にこだわって、しかもオリジナル盤がいいって言ってるでしょ?」

柳樂「演奏がいいという話よりも、安くレコードを買ったという話と、10インチと12インチを両方持っているとかオリジナル盤に買い替えたいとか(笑)」

後藤「そういう話題って、狭いジャズ喫茶界隈のオタクしかしない。『文學界』の読者は変な人だと思うかもしれないけど、僕らに言わせるとこういう人はいくらでもいる」

柳樂「そのくらい、商業誌ということを考えていない語り口が良かったというのはありますね」

村井「村上さんがスタン・ゲッツが好きだというのは昔から有名なんですけど、個人的に一番驚いたのは、オルガニストのブラザー・ジャック・マクダフのレコードが、自分のレコード棚にほとんど全部揃っているということ。ブラザー・ジャック・マクダフって、スタン・ゲッツの洗練された叙情的なジャズの対極にあるような、どファンキーでコテコテのオルガニストなので」

後藤「不思議だよね。あそこを読んで、ただのオタクではない奥の深さを感じるというか」

柳樂「ブラザー・ジャック・マクダフのレコードは高くないから買ったんだよ、絶対(笑)」

後藤「ジョニー・グリフィンもコンプリートしてるって言ってたじゃない。アメリカのジャズクラブでサインをもらおうと思ったんだけど、グリフィンが休憩時間中にフィンガリング(運指)の練習をしてるから、サインをもらいそびれちゃったっていうエピソードは面白かったよね」

村井「ジョニー・グリフィンの演奏のことを『しっかり握ったおにぎりみたいな感じ』という。でも、言われてみると本当にしっかり握ったおにぎりみたいな演奏なんだよね」

後藤「やっぱりただのジャズオタクではなく、作家だから形容が秀逸だよね。でもこの形容が秀逸だというのは、ジャズファンでないと分からないよね」

 当日は「いーぐる」自慢の音響で、紹介されたアルバムが次々とかけられ、イベントに集まったジャズファンは静かに聴き入っていた。総力特集「JAZZ×文学」の「文學界」11月号は全国の書店およびインターネット書店にて発売中。イベント内容はメディアプラットフォーム「note」にて無料配信されている。