徳井健太の菩薩目線 第85回 謹賀新年「願いや望みというのは努力の先にあるものだと思う」



 年が明けた。本年もよろしくお願い致します。

 新たな誓いや目標、願いを立てる人もたくさんいると思う。一方で、俺のように何かを願ったりせずに、旧年から地続きでつながることを良しとする人もいると思う。年が明けて、何かを願うことは美しいことだろうけど、関心がわかない人だっている。

 まだ、俺が5年目くらいの若手だった頃。集合5分前、17時で退社、12時からランチ……誰がそういった時間のルールを決めたのか、腑に落ちないことがあった。そこで俺は、時間という概念を変えてみようと試みた。

 そもそもはるか昔は、太陽が昇って落ち、夜になる――くらいの感覚しかなかったわけで、細かな時間のルールなんて存在していなかったはずだ。 産業革命以降、工業化が進んだことで細かな時間の感覚が作られていくわけだけど、なぜ不適合者である自分が、そのレールの上に乗る必要があるのか気持ち悪さを感じていた。

 俺は若気の至りで、「24時間を倍にすることはできないか」と考え、48時間単位で日々の生活を暮らしてみることにした。「1日って短いよね」とか「1時間であっという間に過ぎるよね」という声に対して、俺は「その倍生きてるんだ!」と充実感を覚えるとともに、頭がバグってしまった。

「今何時だっけ?」と聞かれたとき、俺だけ平然と「37時だよ」なんて答えていたから、きっと周りはとても心配していたと思う。誰かが勝手に決めた卒業式シーズン。それだって年度の終わりである3月に行われているから、そう呼ばれているだけで、48カ月で考えれば次の3月は15月になる。15月だったら卒業シーズンになるのかな? 本当に心配されていたと思う。

 中二病と思われるのも嫌だったし、何より途中から自分の時間と世間の時間がまったく合わないことに訳が分からなくなってきて、この試みはほどなくして止めた。時間の感覚が合わなくなると、日常生活に酔うと気が付いた。

 でも、それくらい時間感覚なんてものは、自分次第でどうとでもなるとも感じた。それに明日も分からない芸人の仕事なんて、土日と平日の境目などほとんどないわけで、世の中の陽気とはあまり関係ない。暑い、寒いはあっても、季節に対する意識や年末年始だから何かしようという意識も薄れていく。時間感覚なんて、結局誰かが決めたことにすぎないのであれば、自分が好きなようにやったほうが気が楽だ。

 日本は、いつ天変地異が起こっても不思議じゃないわけで、何か先のことを考える暇があるんだったら、今に集中した方がいいだろうとも思う。前のコラムで、世の中の多くの人は、「金は盗まれる心配はしているけど命が奪われる心配はしていない」と触れた。願い事は、美しいけど都合がいい。負の側面を考えるときは目先の心配をするのに、どうして正の側面を考えるときは目先よりも都合の良い未来を願うんだろうか。

 天変地異や交通事故なんてものは、バレンタインと一緒。気にしている人、気にしていない人、どちらもいるけど必ずやってくる。その感覚と一緒で、いずれ災いはやってくる。

 となると、馬鹿みたいにお金を稼ぎたいとか長生きしたいとか、そう願う意味が分からない。明日があるから、いや、来てしまうから頑張って生きていく。そう思う。反面、10年先20年先を想像できるってことは、天変地異も訪れないし交通事故にも遭わない――と信じているってことなのかな。俺にはそれが理解できない。

 コロナにしたって、長い戦いになることが予想される。でも、 多くの人は何とかなると思っている節がある。虫歯を放っておく感じに似ている。治ると思っているけど、歯医者に行かない限り虫歯は治らない。でも、「大丈夫、大丈夫。痛くなったら行けばいいんだよ」と、余裕を見せている。

 だったら、いずれなくなるだろう今ある歯で、咀嚼して食べられるものを食べるために、きちんと歯の手入れや歯磨きをした方がいいのに、それをせずになぜだかやたらと願いたがる。願いや望みというのは努力の先にあるものだと思う。

 明治時代・大正時代、男性の平均寿命は43才前後だったらしい。昔であれば、俺には死期が近づいている。もう十分、大人なんだよね、40が近いということは。新しい年が始まったようだけど、また自分なりに頑張っていくしかない。年が明けようが明けまいが、結局はその連続。遥か先にあるものを考えている余裕はない。

【プロフィール】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集めている。デイリー新潮でも「逆転満塁バラエティ」を連載中。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
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