【駐日EU大使に聞く、SDGs】パトリシア・フロア駐日EU大使

 スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリ氏の国連スピーチやEV(電気自動車)シフトによる脱炭素化など、環境への関心・取り組みで世界を牽引するEU(欧州連合)。日本でもSDGs達成へ機運が高まるなか、EUに学べること、また具体的なアクションは何か。2018年9月に来日し、女性初の駐日EU大使として日本とEUの架け橋を担う、パトリシア・フロア氏に聞いた。



パトリシア・フロア駐日EU大使

キーワードは「気候変動」と「ジェンダー平等」


——国連は2030年までのSDGs達成を掲げていますが、現在、大使はどのようなビジョンをお持ちでしょうか。


「世界中の国が目標達成に向けて取り組むことが重要だと考えております。2030年まであと10年を切りましたので、具体的に取り組むことが必要です。とりわけSDGsのゴールの中から、2つをご紹介したいと思います。気候変動とジェンダー平等です。


 まず、気候変動についてですが、私たちEUは“欧州グリーンディール”という政策を進めることで、世界をリードしたいと考えております。これは、2030年までに温室効果ガスの排出量を55%削減、さらには2050年までに気候中立、つまり排出量0を目標に掲げております。できれば日本も同様に2030年までにより野心的な目標を掲げていただきたいと考えております。


 そのためには、革命的とも言える変化・変革が必要です。運輸部門、スマートシティ、エネルギー供給、消費パターンなど、全てにおいて野心的な目標を掲げて変革を起こすことが必要で、そうしなければ地球を救うことができません。2つ目の地球というのは存在しないのです。


 ジェンダー平等についてもお話しします。地球上の人口の約半分を女性が占めているわけですが、この女性たちが持つスキルや才能、活力、関心を活用することなくして、大きな課題に取り組むことはできません。ジェンダー平等というのは人権問題であり、また政治や経済の場において、男女が共同で意思決定に参加できるようにすることです。


 EUとしては、“完全な”ジェンダーの平等を実現したいと考えています。“完全な”というのは、給与やビジネスなどへの女性の参加率もそうですが、EU委員会や政府においても女性の割合を男性と対等にすることを目指しています。EU委員会の顔ぶれを見ていただくと、女性と男性がほぼ対等に参画していることがお分かりいただけると思います」


若者の参加、極めて重要


——2019年の国連総会で当時16歳のグレタ・トゥンベリさんが演説したニュースは、日本でも大きな話題となりました。大使はこのような若い世代の声をどのように受け止めていますか。


「若者が参画することは極めて重要だと考えます。私からのメッセージを送るとすれば、“決して黙っていないで、声を上げて。社会の年長者に対して、若者も参画できるよう求めていくことが大切”ということです。例えば、クリーンな海や節電、節水を実現するにしても、具体的にできることはたくさんあるわけです。グレタさんをはじめ、若者が声を上げることに対して大人は耳を傾けること、また若者は政府が行動を起こすことに期待しているのだと、伝えていくことが重要だと考えています。


 欧州では最近の若い方は、車でなく自転車を所有していたり、カーシェアをしたりといった形に変わってきています。食事に関しても、肉の消費量を減らしたり、ベジタリアンが増えたりと、すでに若者は違いを生み出しています」


Vシフトは「目標」と「規制」


——企業の動きについても伺います。EU主要国は2025〜2040年までのエンジン車の新車販売禁止に向けて、すでにEVやFCV(燃料電池車)の普及など取り組みを進めています。なぜEUでは、こうした動きを進めることができているのでしょうか。


「私たちEUは具体的な目標を2030年に向けて掲げています。1つは2030年までに(排出ガスを出さない)ゼロエミッション車を3000万台普及させることです。さらに2050年までには、自家用車、バス、トラック、あらゆる種類の車両をゼロエミッション車にすることを目指しています。そのためには厳しい規制を設けたり、カーボンプライシングの導入を進めたりしています。これまで生産者や消費者は大きな環境負荷をかけているにも関わらず、コストを負担することはありませんでした。こうした課題を解決するため、消費者や生産者に対して、具体的な目標設定やそれを支える規制を導入するなど、さまざまな手段をとっています。市街地では排出量の上限を設け、クリーンな空気を維持するという政策も設けています。


 電気自動車においても、2020年の新車販売台数は増加しています。EVやハイブリット車を合わせた新車登録台数は2020年第四半期全体の約30%を占めるようになりました。私たちは正しい方向に向かっているのだということが分かります」


日本のSDGs


——日本について伺います。2018年9月の来日から2年ほどが経ちましたが、国内のSDGsの現状についてはどのようにお考えですか。


「気候変動に対して申し上げるならば、EUとしては、菅首相が2050年までに気候中立化を目指すと約束されたことを歓迎しておりますし、今後の協力を楽しみにしております。新しい燃料、水素、電気自動車、風力、太陽光など、さまざまな協力ができるものと思っています。EUと日本が一体となって力を合わせることで、世界に向けて、国連COP26などにおいて各国にパリ協定の遵守を呼びかけていくことができると思います。


 新型コロナウイルスの感染が広がる前は、私自身も北海道や沖縄、九州を旅しました。旅先で感じたことは、ヨーロッパと同様、日本も海面の上昇や例年にないパターンの台風など、気候変動の影響が感じられているということです。このように、ヨーロッパと日本は共通の関心を持っていますので、例えばクリーンな海や漁業を守ること、また海洋プラスチック問題など、さまざまなリスクを低減するために協力ができると思います。


 ジェンダー平等についてですが、日本は国際的なランキングを見ても取り組みが進んでいるほうではないため、やるべきことは多くあると感じます。安倍前首相は“ウーマノミクス”という言葉を作るなど、女性参画やエンパワーメントに力を注いでいました。そうした中で、私自身も“女性の参画を進めるにはどうすればいいか”と聞かれる機会が多くありましたが、1つはクオータ制です。EUの経験からみると、政界でも女性議員の割合を定めていくなど、実現可能な環境づくりが必要かと思います。また、子育てとキャリアを両立するための保育の充実や時短勤務など、さまざまな選択肢のある環境づくりも重要だと考えます」