全国の神社仏閣を巡って出会った“おしゃべり”な石像たち 六本木で西村裕介「THE STONE」展

「THE STONE展 “石の仏、神の獣。”」より

 こうした石像は日本中にあるといい、「地域によっても違いますし、その神社仏閣がどういった系統かによってもまつるものが違います。地域性でいうと、鹿児島県には『田の神さあ(タノカンサア)』と呼ばれる石像があって、これは豊作を願って作り田んぼに置いておくものです。豊作だった田んぼから石像を盗んで、翌年豊作になったら元の田んぼに戻すといった風習もあって、そうした石像がいっぱい残っているんです」と西村。個人的に非常に気になった蛸(たこ)の石像は「鳥取県の福岡神社にあるんですけど、辺鄙な場所で地元の人しか知らないような神社です。その昔、日本書紀に出てくる速玉男命(はやたまおのみこと)という神様が熊野灘(和歌山県)で嵐に遭った際、大蛸に助けられて吉備国(きびのくに)に上陸し、この地に渡来したという伝説があるそうです」という。

 一見すると架空の生き物のような石像もあり、渦巻を背負った動物は「鹿児島県の竹島にある聖大明神社の唐猫」であり、口を開けたユーモラスな生き物は「鯰(なまず)ですね。鯰の聖地の近くにある大森神社で撮りました」。動かないはずの石像だが、じっと見つめていると豊かな表情で何かを語っているようにも見える。そう伝えると、西村は静かに「石仏を見ていると『自分に訴えかけてくる』『言葉が聞こえてくる』という方がいらっしゃいました。聞こえてくる言葉も人それぞれ違うので、自分にはどう聞こえるのかも楽しめるところだと思います」と答えた。

 会場では同名写真集『THE STONE』(リトルモア刊、税込8800円)を先行販売中。最後に、これから写真集を手に取る方に「狛犬、十王、羅漢……いろいろな日本古来の物語を一気に詰め込んだような本だと思います。それらをビジュアルとして形にしたので、ニッチな題材ですが日本文化の新しい側面として見ていただければ」とメッセージを寄せてくれた。「THE STONE展 “石の仏、神の獣。”」は「21_21 DESIGN SIGHT」ギャラリー3にて13日まで。写真集『THE STONE』はリトルモアより6月下旬、全国発売予定。