福田峰之×SUGIZO スペシャル対談 「水素社会」の実現で未来が変わる。

撮影・蔦野裕

LUNA SEAの”水素コンサート”を振り返って

――お二人でLUNA SEAのコンサートに水素燃料電池を運用するという実験も行われてきたとか。

SUGIZO:福田さんと話している中で、アーティスト、ビジネスや官僚、政治などの各界で水素社会に関心の高い方を集めて一度討論しようということになったんです。そこで出たのが、LUNA SEA水素コンサートという案でした

福田:コンサートを水素でやってみようなんて、その時、誰も考えたことがなかったことだと思うんですよ。でも、コンサート会場で電気は絶対に使われるわけだから、水素による代替は不可能じゃないはずだ、と。最初はそんなことができるのかという懐疑心もありつつ、面白いからやってみよう、という好奇心で、実行に向けて実験が行われていきました

SUGIZO:前例がないことをやる時に、前例がないからできないという意識では、新しい社会、カルチャーは生まれていかない。できるか分からないけど、まずは動いてみる。エネルギーに限らず、世の中の挑戦はこうやって生まれていくのだと思っています

――水素コンサートの開催にあたり、印象的なエピソードはありましたか。

SUGIZO:福田さんは、やるとなったら行動の早い人ですから、すぐに燃料電池を扱う自動車や電機メーカー、学術界、電子技師の方々を招集してくださいました。そこで、僕らが普段リハーサルのために使っているスタジオに燃料電池自動車や移動式燃料電池、コンバーターを集めて、僕のギターにつないで水素エネルギーで楽器の音は鳴るのかという実験が行われたんです。

福田:あれは本当に印象的でしたね。すごい人数が集まりましたよね、あの時は。水素エネルギーでエレキギターの音が出るのかという単純な問いに、興味を持って集まってくれた企業や研究者も多かったんです。みんなでSUGIZOさんとギターを遠巻きに囲んで。僕自身も初めての試みで、強い好奇心を持ちました。

SUGIZO:初めて燃料電池の電気で楽器を鳴らした時のことは、今でも忘れられませんね。いつもの音とはまったく違う音が鳴ったからです。この場で発電された“生の電気”によるフレッシュでよく響く音でした。僕らが普段使っている電気は、遠い発電所から電線を通って、長い旅の途中で、半分近くエネルギーを放出してしまっている。燃料電池はその場で生成されたての劣化していない新鮮な電気だからこそ、いい音が鳴るんですよ。

福田:もちろん、音楽のプロではない僕たちには違いが分からないんですけどね。でも、音楽のプロであるSUGIZOさんやオーディオファンからしてみると、当たり前のことなんでしょうね。

SUGIZO:オーディオマニアの方たちなら、誰でも分かることでしょう。自分の家専用にマイ電柱を立てたりする人もいるほどですから。オーディオの見地から見ると、水素燃料電池は音とすごく相性がいいものでした。それが分かってからはライブをするたびにチームを編成して、水素燃料電池車で発電してのライブを4年ほど続けています。

――大規模なコンサートともなると、苦労もあったのではないかと思います。

福田:燃料電池車の台数の確保が、一番骨の折れる作業でしたね。それにその時、用意した燃料電池がHONDA、TOYOTA、TOSHIBAと3種類あったんですけど、SUGIZOさんは、全部音が違うって言うんですよ。TOYOTAの『MIRAI』はロンドンの音で、HONDA『クラリティ』は西海岸の音で……なんて。世界で活躍する芸術家は、やっぱり格が違うなと見せつけられた瞬間でした。

SUGIZO:燃料電池も、メーカーによって回路や電池が違うからできあがる電気が違うと思うんです。オーディオの世界では、アンプや電源を変えながら、どの組み合わせが一番いい音を作るのかを研究します。本当に細かい要因で音が変わってしまうから、音作りに時間がかかる難点もある。

実はその後、僕たちが発案した水素コンサートの企画を世界的なロックバンドのU2が使ってくれたんです。でも、機材が会場に届くのが遅れたことで音作りに時間が取れず、1日目は水素を使うことを断念したそうです。でも、僕らはもう水素コンサートを5年近く続けていて、自分たちのやり方を確立しつつあります。脱炭素社会に向けてのニューノーマルとして位置づけていけたらと思っています。