ある仕事を通じて、「誰も気に留めないかもしれないこと」こそ、未来を作ると感じた<徳井健太の菩薩目線第120回>

平成ノブシコブシ・徳井健太

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第120回目は、いま取り組んでいる仕事の重大さについて、独自の梵鐘を鳴らす――。

 

 今年も終わりが近づいている。来年はどんな一年になるだろう。

 いま、声の仕事をしている。といっても、声優のような仕事ではなく、影から声をあてる仕事。『スッキリ』の天の声や、声だけで現場を回す影MCを想像すると、わかりやすいかもしれない。

 エフェクターで声質が変わるから、俺だと気付いている人はほとんどいないと思う。番組は、俺であることを明かしていないので、「とある番組」とだけ付しておく。

 その仕事に、大きなやりがいを感じている。どんな仕事でもありがたいわけだから、仕事である以上、すべてやりがいはある。でも、その声の仕事は、今まで感じたことがないような責任感を覚えている。予感めいたものというか。

 VTRを見て、それに対してコメントを言う。コメントは決まっているわけじゃないので、アドリブになる。

 もしかしたら、VTRを見てコメントを出すだけだから、視聴者の中には「楽じゃん」と考える人もいると思う。でも、俺からすれば、こんなにも一つ一つのVTRに対して、抜き身の刀で向かい合うような緊張感はない。

 YouTubeでバズった動画をテレビで流す。人のふんどしならぬ、人の動画で相撲を取るな――なんて思われたくないから、スタッフ陣の意気込みもすさまじい。今までにないような番組にしたい。良いものを作り上げよう。そんな気概や愛が伝わってくる。その熱に俺もおかされ、一つひとつのコメントに生き死にをかけているかのような自分がいる。大げさかもしれないけど、大げさじゃない。

 テレビは進化している。今の時代、「はいどうも! 〇〇(番組名)、今週もはじまりました」といったオープニングは必要ないそうだ。テレビも現在進行形で戦っていて、視聴者を飽きさせない、振り向かせるために奮闘している。

「ナレーションは制作サイドの声でしかない、 やっぱり演者の生のコメント力には勝つことができない」。制作サイドからそういった声をかけられると、やる気が出ないわけがない。 ナレーションがあるのか、ないのか、そんな些細なこと一つとっても作り手のこだわりがある。想像以上に渦巻いている。

 この番組では、いつコメントを求められるかわからない。振られるときもあれば、振られないときもある。いつも追い込まれている。

 この声の仕事は、スタジオの雰囲気が見えない。あえて俺が家にいるときのような感覚でVTRに集中できるよう、別室でスタンバイしている。いつ銃弾が飛んでくるかわからない。遠くの方で砲弾の落ちる音が聞こえる。信じられないくらいカロリーを使う。だからなのか、楽屋に弁当がたくさん置いてある。

 別室にいる俺は、収録を終えると、番組共演者とは、誰とも会わず、誰にも会わないまま帰る。アサシンのように家路につく。

 棋士は一局終わると、体重が数キロ落ちているらしい。頭を極限まで使うと、人間は信じられないくらい体力を持っていかれることを、初めて理解した。でも、このひりつくような感覚は、とてもやりがいがある。

 ビビる大木さんは、『トリビアの泉』の収録の際、 VTRが流れている間もずっと話すことを心がけたそうだ。誰に言われるわけでもなかったけど、タモリさんもいるスタジオの中で VTRが流れている最中の空気を作りたい―― その一心から自主的にやっていたそうだ。誰も気に留めないかもしれない。でも、それをがんばっていたから、今の自分があると振り返っている。 

  Hey! Say! JUMPとジャニーズWESTが週替わりで出演していた『リトルトーキョーライフ』の麒麟・川島さんの影MCは、知る人ぞ知る達人の技だった。あの経験があるから、今の川島さんの大活躍があるんじゃないか……なんて勝手に思っている。

 誰も気に留めないかもしれないことこそ、とても大事なことだと思う。自分にとって、この仕事はそういう仕事だと勝手に思っている。芸歴20年を超えて個人技を鍛える機会なんてそうそうない。まだ上手くなれるかもしれない。番組に恩返しができたら。来年は、そういう一年にしたい。

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集めている。デイリー新潮でも「逆転満塁バラエティ」を連載中。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw