太鼓芸能集団 鼓童・初主演の豊田利晃監督による音楽映画『戦慄せしめよ』東京での上映は2月10日まで

豊田利晃監督、鼓童の中込健太、住吉佑太、音楽家の日野浩志郎(左から)

豊田監督「鼓童が映画の味方になってくれて実現した」

 この、佐渡島の過酷な自然と対峙した撮影については、2日目のトークで裏話が語られた。映像化にあたり「佐渡島全体を捉えたいと思った」と語る豊田。「ロケハンであちこち見てもらって話を聞いても全然ピンとくるところが見つからなかったが、最初と最後に出てくる賽の河原は、うるっとくる感動できる場所だったので、“これは映画になる” と思った」という。「(監督と)ふたりで話しているときに、“とにかくストーリーを探している” とおっしゃっていたのをすごくよく覚えています。単なるミュージックビデオではなく物語を描くことを考えているのだと思った。あの時に岩谷口の伝説の話をして、それもストーリーになったのではないか」と振り返る住吉。

  豊田は「出てくる話がオバケの話しかなくて、おっかない島だと思いました(笑)。オープニングで日野浩志郎が入っていく(宿根木の)洞窟は島の南にあり、エンディングで抜けていく洞窟は北にあって、ここが実はつながっているという伝説があって。助監督に “行ってこい” と言ったけど、行けなかった(笑)」と明かすと「闇が広がっていて、立ちくらみがするくらいに暗く、モヤモヤしている感じがあるんです。勇気があれば行けると思いますが」と同感する住吉。

 豊田が「鼓童の人って(屈強なイメージなのに)オバケとか苦手ですよね」と意外なギャップを暴露すると、住吉が語ったのは「鼓童の研修所は山の上の廃校で、2年間、携帯電話も手放し、テレビもなく、電子機器に触らない生活をしていて、そうすると肌の感覚が鋭敏になる」という、太鼓一筋の生活を送る鼓童ならではの体験だった。「鼓童に入るまでは、生活していても幽霊について感じるようなことはないが、研修所だとそれを感じるタイミングがある」のだという。その他、岩に反射して音が聞こえる「響岩(ひびきいわ)」を利用した撮影などが語られたが、実に200km以上あるという、南端の洞窟や鼓童村を経て、北端にある名所「賽の河原」に至るまで、極寒の中を、前述にもあるように人力で大きな太鼓を転がしながらロケを進めた。住吉は「この映画で初めて行った場所もあった。北のほうは生活圏内ではないので、僕らからしても不思議なパワーのある場所で、とくに大野亀のある願という地域は南にはない空気がある」と、佐渡島で暮らす鼓童にとっても新鮮な体験だったことを明かす。豊田からは「滝の前に橋を作って太鼓を転がして渡らせるということ自体大変なこと。鼓童が映画の味方になってくれて実現した」と改めてコラボレーションの成功に感謝を述べた。

 同作は10日まで東京・シネマート新宿にてブーストサウンド上映中。2月11〜17日の1週間は大阪のシネマート心斎橋にてboidsound限定上映。その後は全国順次公開の予定となっている。劇場情報は公式サイト( https://etto.world/ )から。(取材と文・ユカワユウコ)

(©越島)
『戦慄せしめよ』
佐渡島に流刑された世阿弥のような幽霊(渋川清彦)が道を歩いている。男は能面を被り、岸壁に立つと火のついた松明で空を叩く。時空を超え、現代の岸壁で、裸で太鼓を叩く鼓童の男。太鼓の音は燃え盛る炎のように高まり物語が始まる……

監督・脚本:豊田利晃 音楽:日野浩志郎 演奏:太鼓芸能集団 鼓童(阿部好江、中込健太、小松崎正吾、住吉佑太、鶴見龍馬、小平一誠、前田順康、吉田航大、三枝晴太、渡辺ちひろ、小野田太陽、詫間 俊、中谷 憧) 出演:渋川清彦/豊田組配給/89分
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