外交・安全保障通の長島昭久氏がウクライナ問題が東アジアにもたらす影響を解説〈インタビュー〉

3月10日、モスクワ。事業継続を表明していたユニクロもロシアでの事業の一時停止を発表。それを受け行列を作る市民たち(写真:Abaca/アフロ)

中国が台湾への武力行使を思いとどまる可能性はあるのか?

 今回の問題のほとぼりが冷めるまではさすがに、ということですか?
「僕らはウクライナの問題がなくても、台湾有事については“あるかないか”ではなく“いつあるか”というふうに身構えています。今回のプーチン氏の戦争の終わらせ方によっては、習近平氏も考え直すのではないかという見方と、アメリカやヨーロッパがウクライナばかりフォーカスしているとこちらががら空きになってしまい“じゃあ今やっちゃえ”となるかもしれない。こういう相反する見方が専門家の中にもあって、両にらみになっています。そういう意味では日本はもちろんウクライナを応援するんですが、あまりあちらにとらわれていると自分たちの庭先がおろそかになってしまう。そう簡単ではないと思います」

 かつてソビエトという強国があった時代、そのころは中国は強国ではなかった。ロシアの後ろ盾があって大きくなったという印象があります。
「今は逆ですよね」

 かつてほどではないにしてもロシアも強国の一つです。今回の件でロシアという盟友が弱体化することの中国への影響はどんなものがありますか?
「もう中国はロシアを全然頼っていません。むしろロシアは西側から全部遮断されてしまうので、中国しか頼るところがなくなってしまいます。ロシアは大国意識があるので、これまでは中国のジュニアパートナーという地位は受け入れがたいと思っていたと思うんです。でも今となってはほかに頼るところがない。実際、国土は大きいですが、経済力は韓国より小さいですから。天然ガスや原油の産出量が多く、ヨーロッパは輸入する天然ガスの4割をロシアに依存しているといわれますが、世界の原油生産量のうち米欧へ輸出されている割合は0.9%(約800万バレル)に過ぎません。これは1年もすればアメリカ産原油が全部カバーできる。そうなるとロシアの影響力も暴落する。だから、中国もそんなロシアにあまり頼られても困る部分もあるんじゃないでしょうか」

 では中国がロシアに三下り半を叩きつける状況になれば、それがとどめになって、今回の侵攻が終結に向かう可能性もありますか?
「多分、そういう状況まではいかないと思うんです。中国もロシアに利用価値があるうちは利用するでしょう。ロシアが国際秩序を不安定化していると、アメリカも対中国に集中できない。だから国力からいっても北朝鮮と同じような扱いになると思います。今は北朝鮮が適度に騒いでいるから、中国もその背後でなんとなく安穏としていられますが、これが北朝鮮やロシアが弱体化しすぎると世界の耳目が全部中国に集まって、中国としても動きにくくなるところも出てきますから」