小さな発見をたくさん見つければ、大きな発見になる。『チャンスの時間』の収録の片隅で見た、“バラエティの素敵な世界”〈徳井健太の菩薩目線 第128回〉

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第128回目は、『チャンスの時間』の収録で見た光景について、独自の梵鐘を鳴らす――。

徳井健太

 ABEMA『チャンスの時間』の企画「くすぶり娘with東京のお父ちゃん 涙涙の号泣歌合戦」に出演させていただいた。すでに放送は終了し、現在はABEMAプレミアムから視聴できるので、気になる方は是非ご覧になっていただきたい。

 夢を追いかけて上京したものの芸能界でもがいているアイドルや女性タレント(通称“くすぶり娘”)を招き、ゲストである俺たちが相談を聞く。その後に、その思いを胸に彼女たちが熱唱する――という当企画。

 お父ちゃん役は、俺を含め、COWCOWの善しさん、ルシファー吉岡、そしてMCである千鳥の大悟さん。一人ずつ異なる“くすぶり娘”が送り込まれ、俺の相談者はミライスカート+として活動する児島真理奈さんだった。

 この収録は、お父ちゃんと“くすぶり娘”が一組ずつスタジオに登場し、千鳥さん、ゲストのスピードワゴン小沢さん、トリンドル玲奈さんに審査される……つまり、俺がスタジオに登場し相談に乗っているときは、COWCOWの善しさんたちは、そこにはいない(冒頭のトークは全員登場したものの)。おそらく、コロナ事情を考慮し、密にならないように配慮されたものだったんだと思う。

 とは言え、他の共演者がどんなお父ちゃんを演じるのか気になる。そこで俺は、カメラさんの後方、ソーシャルディスタンスをキープしながら、スタジオでその模様を見学することにした。

 MC横で、他共演者とともに収録に参加する。そんな当たり前のことに慣れすぎていたからなのか、とんでもなく新鮮な体験に映った。バラエティ番組の社会科見学。普段、スタッフさんたちがどんな視線で収録を見ている、追っているのか、ありありと伝わってくる。演者側にいるときとはまったく違うアングル。これぞ特等席だと思った。

 大悟さん演じるお父ちゃんのとき、カメラさんが信じられないくらい笑っていた。「こんなに笑うんだ」って思うくらい、声を抑えながら、肩を震わせながら笑う。

『チャンスの時間』のスタッフさんは、バラエティ制作の精鋭たちが集っている。そのカメラさんが、箸が転んでもおかしい年頃のように大悟さんのお父ちゃんで笑っている。

 俺は、カメラさんは笑わないという印象を持っていた。画を撮ることに、瞬間を逃さないために集中している。そんな職人肌の人を笑わすのは容易ではない。

 ところが――。笑うだけに収まらず、となりのカメラさんを小突いて、アイコンタクトで「今の見た!? ヤベェ」みたいなやり取りまでしているじゃないか。

 なんて素敵な世界なんだろうと思った。

 カメラさんが互いに肩を叩いて笑っている空間を、芸人が生み出す。おそらく、大悟さんはその光景に気付いていないと思う。演者側は演者側で、神経を尖らしている。自分のパフォーマンスに集中しているから、なかなか細部まで気が付かない。

 それがまた「素敵」に拍車をかける。ただただ面白い人たちが面白い空間を作り、そこにかかわる人たちの幸福度を上げてしまう。こんなに素敵な世界が、バラエティには広がっている。

 普段からスタッフさんたちは、それくらい笑っているのかもしれない。でも、演者とスタッフでは、集中する世界が違うから、どうしても俺たち芸人はそこまでスタッフさんが笑っているなんて気が付かない。カメラの位置やディレクターの指示、カンペを追ったりするから、「すごいウケた」と感じることはあっても、カメラさん同士が小突き合いながら楽しんでいるなんてところまで追えない。

 笑い声が薄いと、「すべったのかも」なんて考え込んでしまうけど、実は気が付いていないだけで、同時多発的にスタッフさんだけが声を抑えて笑っている瞬間がある。小さな発見をたくさん見つければ、大きな発見になる。スタジオの片隅で、そんなことを考えていた。

 演者とスタッフの中間。際(きわ)。その真ん中でバラエティ収録を見学すると、ともに面白いものを作ろうとしているバラエティ人が交易する瞬間が見えてくる。こんなものまで売っているんだ、こんなレートで取引されるのか。面白いことがどう生まれ、交換されているのか。スタジオの後方は、まるでシルクロードだ。

 カメラさんが笑っているということは、当然、笑わせた人にカメラは向けられる。その人の撮れ高は増え、おそらくテレビにたくさん映る。当たり前の原理。だけど、視点をちょっとずらしてみるだけで、こんなに腑に落ちるとは思わなかった。若い頃にもっと特等席で収録を見ておけば――なんて思ったけど、今からだって遅くはない。

【プロフィール】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
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