累計4万部超! “炎の講演家” 鴨頭嘉人が『コミュニケーション大全』で10万部を目指すわけ

鴨頭さんの新刊を販売するにあたって200軒の書店を直接訪ねたという吉村博光さん(右)

リアル店舗のメリットは “人と人とがコミュニケーションを取ること”

 とはいえ書店と出版取次にそれぞれ利益を分配し、減少した売上はどのように補っているのだろうか。

鴨頭「グレートクエスチョン! よくぞ聞いてくれました(笑)。本をフロントエンド商品(集客商品)としてバックエンド商品で利益を出すんです。たとえば、この本では  “『コミュニケーション大全』を多くの方に届けたい!” というクラウドファンディングをやって、その中でサイン入りの書籍やオンラインサイン会への参加権を販売しました。ひと口500円からのチップ(投げ銭)をくれた人もいるし、講演会の動画視聴権というのもあります。うちの出版社の一番の強みは講演会主催権で、ひと口100万円で15本売れました。

 今後、僕以外の著者さんが本を出版する場合、 “販売に協力していただいたら利益を折半しましょう” と、お互いに協力してプロモーションしませんかと交渉していきます。新しい著者さんはいきなりそんなことを言われても “何をしたらいいんですか” と迷ってしまうので、今、僕がいろんなアクションをやって全部メニュー化し、今後は “A~Jまでのメニューの中で、どれとどれなら一緒にやれそうですか” という提案をしていく予定です」

 自身もビジネス書を中心に年間800冊の本を読む読書家だという鴨頭さん。書店に対する思いは並々ならぬものがある。

鴨頭「僕は本が大好きなので、この本の販売に協力してくれた紀伊國屋書店新宿店さん、旭屋書店池袋店さん、梅田 蔦屋書店さんで “どうだ! このディスプレイ” みたいな陳列を見て、書店員さんの気合を感じて感動したんですよね。そういう書店さんがある一方で、入った瞬間に “この書店さん、もう疲れているんだな” というのが分かる書店もいっぱいあります。

 僕が少し前まで住んでいたところに “奇跡のファミリーマート” と呼ばれるお店がありました。ななめ前に駐車場のある別の大手コンビニがあって、子どもが小さかったので駐車場のあるコンビニに車を停めて寄ろうとすると、息子はファミマに10円のガムボールマシーンがあるので “あっち、あっち” と言うんです。オーナーは息子が行くと必ず “ハルヒトくん、久しぶり” と声をかけて “何が出るかな~” と言ってくれるんですよ。

 店頭には地元産の野菜が並んでいて、夏になるとカブトムシが置いてあるし、クリスマスになると音が鳴ると踊り出す大きなサンタクロースまで出てくる(笑)。僕がオーナーに “何でサンタが置いてあるんですか” と聞くと、当たり前のように “子どもたちが喜ぶじゃないですか” と答えるんです。その後何が起こったかというと向かいのコンビニは閉店し、跡地に駐車場付きの別のファミリーマートができて、本部でも “晴天の霹靂(へきれき)” だと言われています。このオーナーがやっていることは書店にもできることだと思うんですよ」

吉村「僕が回った書店さんでいうと、広島県のウィー東城店の店長さんは手品をやったりお祭りしたり、年中、お客さんとコミュニケーションを取って、そこに行きたくなる仕掛け、楽しんでもらう仕掛けをやっていました」

鴨頭「今、リアル店舗があるメリットは人と人とがコミュニケーションを取ることしかない。書店員さんが自分が大好きな本をお客さんに薦め、買ったお客さんが次に来た時に “あれ、面白かったよ” と言われたら、やっててよかったと思うじゃないですか。書店員さんがそういう仕事ができるようにするために、鴨ブックスは頑張っていきたいなというのがあって。出版業界の仕組みが変わって書店の利益率が上がれば、そういう余地が生まれるんじゃないかと思っています」

 鴨ブックスと『コミュニケーション大全』の挑戦はまだ始まったばかりだ。

(TOKYO HEADLINE・後藤花絵)