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変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その拾)【長島昭久のリアリズム】

2018.02.10 Vol.703

 これまで述べてきたような戦略環境の変化に対応するために必要なことは、第一に、世界第3位の経済大国である日本が、アジア太平洋における平和と安定と繁栄の確立に積極的に関与することです。第二に、その関与をより強固なものにするため、日米同盟の深化を通じ戦略的な勢力均衡を確保し、域内における国際秩序を再構築すること。第三に、同じ海洋勢力である豪州、台湾、インドネシア、シンガポールなどとの緊密な連携をどこまでレベルアップできるか真剣に模索することです。

 まず、日本がここ数年で取り組んできた安全保障をめぐる7大改革を概観します。第一は、国家安全保障会議の創設。これは、米国のNSCなどのカウンターパートとして、日本の安全保障戦略を構築し関係省庁を統括する司令塔です。第二は、秘密保護法制の整備。これにより、米国との情報共有は飛躍的に高まりました。第三は、防衛装備品輸出の緩和。豪州との潜水艦共同開発・生産は実現できませんでしたが、今や米国のみならず英国、インド、フランス、イタリアとの共同開発の可能性が広がっています。第四は、国際平和協力や安全保障分野への政府開発援助(ODA)の柔軟活用です。それまでは安全保障に関わるODA拠出は禁じられていましたが、これによってフィリピンやマレーシアへの練習機や哨戒機の供与に道が開かれ、東南アジア諸国の海上警察・洋上監視における能力構築を直接支援できるようになりました。

 さらに、第五に日米防衛協力のためのガイドラインの再改定、第六に集団的自衛権の(限定的)行使を容認する閣議決定、第七に安全保障関連法制の包括的な改正です。これらを通じて、日米は、少なくとも西太平洋においてはほぼ相互防衛の体制がとれるようになりました。最近でも、海上自衛隊の護衛艦等が、朝鮮半島をめぐる強制外交の一環で活動するカール・ヴィンソン空母戦闘群の護衛任務に就いたことが耳目を集めました。また、能力向上著しい北朝鮮のミサイルによる飽和攻撃に対しても、日米のミサイル防衛システムはリアルタイムでの情報共有・指揮統制リンクによって、渾然一体となった迎撃対処が可能となりました。

 今後の最大の課題は、いかにして日本の防衛費を増やせるかです。重点を置くべきは、第一列島線を死守するための日本版A2AD戦力の増強でしょう。それには、第一に地対艦ミサイルの能力向上、第二に潜水艦戦力の拡大、第三に敵基地への反撃能力を含む統合防空ミサイル防衛(Integrated Air and Missile Defense, IAMD)能力の増強が必要です。数字の上でも、日本は2004年に国防費で中国に抜かれ、2020年には6倍、2030年には10倍の差となる計算です。したがって、日本の防衛力整備についても、独自の努力を真剣に考える必要があります。少子高齢化に伴う社会保障経費が増大する中であっても、わが国として必要な防衛費を捻出する政治的覚悟を持たなければなりません。
(衆議院議員 長島昭久)

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その九)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2018.01.13 Vol.701

 ドナルド・トランプ大統領は、昨年1月の就任以来、過激な表現で相手を幻惑し、その後に大胆な譲歩をして見せて一気にディール(取引)を成立させる手法を繰り返し用いています。就任前は「“一つの中国政策(One China Policy)”を見直す」と公言するなど、かなり強硬な対中政策を打ち出していましたし、今でも表面的には強硬姿勢を崩していないように見えます。しかし、南シナ海をめぐっては、オバマ政権最終盤で慌てて再開した「航行の自由」作戦を昨年5月まで実施を見合わせていた様に、実質的には、オバマ政権と大差はありません。オバマ政権も、アジア・ピヴォット(回帰)やリバランス戦略などを次々に打ち出し、中国の海洋進出に対する牽制を行うかに見えましたが、結果的に、南シナ海の人工島造成を許してしまいました。つぎに来るのは、「南シナ海防空識別圏(ADIZ)」の設定かもしれませんし、人工島の軍事的運用の開始かもしれません。

 実際、中国はこの間も、着々と人工島に滑走路を建設し、民間利用では説明のつかないような対空レーダーや長距離地対空ミサイルを格納できる屋上開閉式施設、さらには、昨年に入ってついに戦闘機の試験飛行を始めました。このような中国の動きを適時に牽制するためにも、少なくとも、ハワイの米太平洋軍司令部は、ワシントンに対し常続的な「航行の自由」作戦の実施を意見具申していると聞いています。1980年代来世界の海で続けられてきた米国によるこの作戦は、中断したり再開したりすればするほど「政治化」されてしまい、かえって相手を過度に刺激し挑発的行動と受け取られかねなくなります。

 すでに中国は、ヴェトナムを追い出して西沙諸島の実効支配を握り軍事力を展開しています。南沙諸島では広大な人工島を造成し、さらにはフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に位置するスカボロウ礁への中国公船による執拗な攻勢が続いています。こんなことが許されるなら、国際秩序や航行の自由といった法の支配は形骸化し、19世紀的な力の支配に逆戻りとなってしまいます。

 南シナ海や東シナ海での中国の力を背景にした一方的な現状変更の振る舞いをいかにして解決するかは、今後のアジア太平洋地域の国際秩序の根幹にかかわる重大問題です。換言すれば、米国が、この地域に適切に関与し続ける意思(resolve)を有しているか否かを占う重要な試金石ともいえます。しかし、トランプ政権が、無原則なディールによって米国一国の短期的な利益を優先させることに汲々とする余り、これまで米国が自らリスクを背負いコストを支払いながらも維持してきた国際秩序を等閑視するようなことがあれば、アジア太平洋地域は一気に不安定になり、世界経済の牽引役を期待されている域内経済は深刻な打撃を蒙るでしょう。
 
(衆議院議員 長島昭久)

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その八)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2017.12.09 Vol.701

「現状維持(status quo)」という言葉は、台湾海峡の平和と安定においては死活的に重要なキーワードです。過度な対中傾斜で台湾内の世論から拒否された国民党の馬英九政権に代わって8年ぶりに政権に復帰した民進党の蔡英文政権ですが、それとて大陸中国との適度な距離感をつかみ損ねれば途端に台湾の人々からの支持を失ってしまうことは確実です。台湾海峡両岸の関係が台湾の政権にとりその死命を制する重大問題であることは、馬前政権が「ひまわり学生運動(※馬政権が強行しようとした事実上の中台FTAである両岸サービス貿易協定への反対運動)」を中心とした「天然独」と呼ばれる台湾新世代の猛烈な批判にさらされ政権を追われた事実がある一方で、その前の陳水扁民進党政権が過激な独立志向を米国から痛烈に非難されて政権の求心力を喪失していった事実をも併せて想起すれば明らかでしょう。

 その意味において、予測不可能なトランプ政権の外交姿勢は、当事者の台湾のみならず同盟国たる日本にとっても頭の痛い問題です。とくに、大統領就任前にトランプ氏が異例にも蔡総統からの祝福電話を受け、その後のテレビ・インタビューで、リチャード・ニクソン政権以来40年ちかく米中関係を規定してきた「一つの中国」政策(”One-China” Policy:「原則」ではない点は注意を要する)からの離脱を示唆した発言は、関係国を少なくとも2カ月余り翻弄しました。結局、トランプ大統領は今年2月の日米首脳会談直前に大統領就任後初の米中電話会談を行い、あっさりと「一つの中国」政策を尊重すると表明し、その背後でどのような戦略的なディール(取引)がなされたのかという疑心暗鬼を各国に招きました。そして、それが今後の両岸関係にどのような影響を及ぼすのか予断を許しません。

 これは、米国内法である台湾関係法に基づく米国の対台湾武器供与の行方をも左右するという意味で、台湾の安全保障にとって死活的な問題です。中台の軍事バランスは、1990年代後半以降、年々その格差が拡大しており、2015年時点で中国の公表国防費は台湾の約14倍となっています。そのような情勢下で、台湾が予てから希望しているF-16C/D戦闘機や通常動力型潜水艦などの供与が円滑に進められるかどうか、注視していく必要があります。圧倒的な陸軍力を誇る中国ですが、台湾本土への着上陸侵攻能力はいまだ限定的といわれています。しかし、近年、中国は大型の揚陸艦を建造するなど侵攻能力の向上に努めており、圧倒的なミサイル攻撃能力と併せ考えれば、米国による台湾への軍事支援とともに、台湾独自の防衛努力も加速化させる必要があるでしょう。      
 (衆議院議員 長島昭久)

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その七)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2017.11.15 Vol.700

 現在、世界中の耳目を集めているのが朝鮮半島情勢です。トランプ政権は、G・Wブッシュ政権の終盤以来約10年続いた「戦略的忍耐」からの離脱を宣言し、日韓との同盟協力を中心に軍事的圧力を一気に高め、さらに中国を促して経済・金融面からの圧力も増大させています。しかし、北朝鮮の金正恩体制は自らの生存を担保する核とミサイルの開発を止めようとはせず、逆に米国の先制攻撃に対しては弾道ミサイル、多連装ロケット、長距離砲などによりソウルと東京を「火の海にする」と恫喝しています。さしものトランプ政権も、事実上「人質」となった日韓両国(およびそこに在住する米国民)を犠牲にしてまで容易に軍事オプションを開始するわけにもいかず、膠着状態に陥っています。

 ここで注意しなければならないのは、米中両国の水面下での動きです。ドナルド・トランプ大統領は、選挙キャンペーン中から頻りに中国を「為替操作国」だと非難し続けましたが、朝鮮半島問題で中国の影響力が大きいと見るや、途端に前言を翻し、北朝鮮の核・ミサイルの開発阻止という安全保障問題と為替や貿易不均衡是正という経済問題とのディールを試みているように見受けられます。米中の戦略的ディール(取引)をめぐって警戒せねばならないことは、米国と同盟国との脅威認識の「ずれ」です。中国も含めた国際社会が北朝鮮の核保有を認めないという点で一致していることは言うまでもありませんが、その運搬手段をめぐっては、自国に届くICBMを持たせたくない米国と、すでに弾道ミサイルの射程内に収まる日韓とで、実現すべき戦略目標は異なります。したがって、仮に米中が、北朝鮮のICBMの開発を阻止させることでディール(※例えば、北朝鮮の核保有の形ばかりの凍結と引き換えに、米本土に届かない範囲でのICBM保有を容認するなど)した場合には、日韓両国が北からの脅威の射程圏内に取り残されることになってしまいます。

 米中が合意しかねない朝鮮半島の「現状維持」が、日韓をはじめとする同盟国の戦略的利益を置き去りにすることのないよう、とくに日米韓三か国による緊密な連携は不可欠であります。その際に、歴史問題などで脆弱な日韓関係をいかに安定化させるかは、日韓の政治家に課された重大な使命です。もちろん、日本側の努力こそが重要であることは論を待たないですが、韓国の新政権が安易な反日姿勢を取ることのないよう国際社会にも適切に関与してもらいたいと考えます。

 一方、この「現状維持」という言葉は、台湾海峡の平和と安定においては特に重要なキーワードとなります。次回はここに焦点を当てて論じたいと思います。
(衆議院議員 長島昭久)

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変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その参)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その参)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」


変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その四)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その四)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」


変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その伍)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」
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変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その六)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その六)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その六)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2017.10.29 Vol.699

 ドナルド・トランプ米大統領が政権発足初日(本年1月23日)に署名したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)からの「永久の離脱」を命ずる大統領令は、米国のアジア太平洋地域の平和と繁栄に対するコミットメントの真剣さを域内諸国に疑わしめるような行動の象徴といえます。内政・外交を通じて「アメリカファースト」を掲げるトランプ政権が、保護主義、孤立主義に陥ることのないよう、われわれ同盟国や友好国が時に注文を付けたり建設的な協力を欠かさぬことがきわめて重要です。

 なお、日本政府は、経済戦略を急ぎ修正して、米国を除く11か国でTPP協定の発効を目指し、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)の合意基準をさらに高めるよう努力するとともに、域内に公正で開かれた経済連携のネットワークを確立すべく全力を挙げる方針です。

 これは、単に経済秩序の問題にとどまらず、国際秩序をめぐるいわゆる「ツキディデスの罠」を回避するためにはきわめて重要な戦略的課題です。「ツキディデスの罠」とは、古代ギリシャ時代に、覇権国スパルタに対して新興国アテネが覇権争いを挑み、最後には武力紛争が不可避となってしまったことを例に、戦争が不可避な状態まで従来の覇権国家と、新興の国家がぶつかり合う現象を意味する国際政治学の用語ですが、これを現代に置き換えれば、我々はパワーゲームを展開する新興勢力たる中国にどう対峙するかが問われているのです。

 ただ、古代ギリシャ時代と異なるのは、既存の国際秩序の側に立つ我々は、単なるパワーゲームの一方の当事国ではなく、「法の支配」に基づく平和的な国際秩序を維持・発展することに努力を傾注している側であることです。この既存の国際秩序が新興国や秩序挑戦国によって浸食され弱体化されることのないよう、我々は柔軟で包摂的な(つまり、将来的には中国も加盟できるよう)ルールに基づいた秩序の再構築に全力を傾けねばなりません。

 トランプ政権は、発足100日を経て、「NATO(北大西洋条約機構)は時代遅れ」、「日本や韓国も核武装すべき」などといった選挙キャンペーン中の過激な発言や公約を撤回し、次々に政策転換を図っています。とくに外交・安全保障分野では、レックス・ティラーソン国務長官やジェイムズ・マティス国防長官、H.R.マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)らを中心に伝統的な共和党の現実主義的な政策に回帰しつつあり、同盟国や域内の友好国政府を安堵させています。

 それでも、いくつか懸念されるポイントがあり、とくにトランプ流の「ディール外交」がもたらす中長期的な懸念事項を次回以降、1)朝鮮半島、2)台湾海峡、3)南シナ海の三つのケースに絞って検証したいと思います。    

(元防衛副大臣 長島昭久)

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変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その四)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その四)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」


変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その伍)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」
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変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その伍)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2017.09.30 Vol.698

 オバマ政権の8年間に、アジア太平洋の地域安保に対する米国の関与の意思が徐々に希薄化したのにはいくつか原因があります。

 第一は、テロとの戦いの一環であるアフガン、イラク戦役に相当数の兵力を割かざるを得ず、最大3割もの兵力が中東湾岸へ振り向けられることになったこと。今後も米国がIS掃討作戦に深く関与するとすれば、アジア太平洋地域における前方展開兵力の立て直しは急務となるでしょう。

 トランプ新政権が今年2月に次年度国防予算の前年度比1割増を連邦議会に要求したことは、域内の同盟・友好国にとり大きな安心材料となりましたが、これとて、1兆ドルにおよぶ国内インフラ投資や総額10兆ドル規模の減税といった選挙公約との両立を危ぶむ声もあり、予断を許しません。

 第二に、オバマ政権中枢が戦略的視点を欠き、中国によるアジア太平洋地域に対する海洋進出の実相を軽視していたこと。例えば、スーザン・ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)は2013年11月に行った講演で、過去に米政府が拒否し続けてきた中国との「新型大国関係」を機能させようと述べ、さらに2016年7月の訪中に際しては、直前に国際仲裁裁判所による「九段線」否定の裁定があったにもかかわらず、中国首脳との一連の会談でこの裁定や南シナ海における中国の横暴な振る舞いについて全く言及しませんでした。

 約13平方キロにもおよぶ人工島の造成を中国に許してしまったことは痛恨の失政といえます。これだけの広大なエリアを埋め立てることは一朝一夕にできるものではなく、少なくとも2014年から15年末までの1年半の間に牽制や阻止するチャンスはいくらでもありました。しかも、その人工島の起点となったのは、国際法上、領海もEEZも構成し得ない岩礁(暗礁か低潮高地)に過ぎなかったわけです。このような中国の常軌を逸した行動が、ほぼノーチェックで完了し、今なお「軍事要塞化」の努力が継続されているのです。

 オバマ政権の南シナ海における海洋の秩序維持についての無関心は、米太平洋軍がホワイトハウスに対し督促し続けた南シナ海での「航行の自由」作戦を、ライス補佐官を中心とするNSCが約3年間も中断させていた事実にも表れていますが、トランプ政権に交代してからも、今年の5月下旬まで同作戦が行われていなかったことについてもこの際注意を喚起しておきます。

 朝鮮半島問題で中国の協力を殊更強調するトランプ大統領が、南シナ海における安全保障問題と対中貿易とを安易にディールする危険は常に存在しており、日本をはじめとする同盟国は米国に言葉ではなく行動を促す必要があります。その際、ティラーソン国務長官が1月の上院での指名公聴会において、「我々は中国に対し、まずは人工島の造成を中止しなければならないと伝え、次に中国によるこれらの島々へのアクセスは認められないとの明確なシグナルを送る必要がある」と述べた言葉の実行を強く迫るべきでしょう。

(衆議院議員 長島昭久)

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変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その参)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」


変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その四)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」
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変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その四)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2017.09.04 Vol.695

 これまで述べてきたように、中国が、米軍の介入を極力阻みつつ、東アジアから米国の影響力を排除するという戦略目標に向かって着実に地歩を固めているというのは明白な現実です。かつて、サミュエル・ハンティントン教授が、「アジア的な国際関係の“階層構造”下では、中国は、東アジアにおいて覇権を獲得する上で必ずしも武力行使による領土の拡大は必要なく、自国の様々な希望や要求に沿うようにアジア諸国を促すか、時に強制力を用いて自らの考えを受け入れさせるか、または説得しようとするだろう」と述べたごとくです。

 そのような中で、AIIB(アジア・インフラ投資銀行)を基盤とする「一帯一路」構想の野心的な試みが本格的にスタートしました。今年の5月に北京で開催された国際協力会議には、130か国以上から1500人が参加し、ロシア、イタリア、フィリピンなど29か国は首脳が出席したのです。習近平中国主席は、開幕式で、「協力と共存共栄を中核とした新たな国際関係を築く」と演説し、米国中心の既存秩序を牽制しました。

 その上で、インフラ投資などの資金を賄う「シルクロード基金」に、約150億ドルを追加拠出する方針を表明したのです。さらに、「多国間貿易体制を守り、自由貿易圏の建設を推進する」と述べ、トランプ政権がTPP(環太平洋経済連携協定)を離脱したことを尻目に、あたかも世界経済の牽引役を宣言するかのごとく振る舞いました。

 中国は、同時に、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)を中心に、東アジアにおける自らの経済的な影響力の拡大に余念がありません。しかし、RCEPが低いレベルのルールに基づく経済連携に止まり、AIIBによる融資が人権侵害や環境破壊を助長するようでは、アジア太平地域の安定的な発展や繁栄は望めず、我々はそのような動向を看過するわけにはいきません。

 地域覇権を確立し、域内から米国の影響力を排除しようとする中国の意図をくじくことができるのは、自らを「太平洋国家」(オバマ前大統領)と位置づけ、第二次大戦以後、アジア太平洋地域における安全保障の基盤を提供し続けて来た米国のみです。

 米国は、ハブ・アンド・スポークと呼ばれる二国間同盟網を同地域に張り巡らせて、圧倒的な軍事プレゼンスを維持し、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争などで多大の犠牲を払いながらも、政治、経済、安全保障の秩序を守り抜いて来ました。冷戦後も、1994年の朝鮮半島核危機や96年の台湾海峡危機などで米軍のパワー・プロジェクションがもたらす抑止力を遺憾なく示し、地域の安定化のために不可欠な公共財ともいうべき機能を発揮してきました。

 しかし、オバマ政権の8年間に、地域安保に対する米国の関与の意思は徐々に希薄化したと言わざるを得ません。
 その背景と昨今の動向について、次回、詳しく述べたいと思います。

(衆議院議員 長島昭久)

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変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その参)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」
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変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その参)/連載コラム「長島昭久のリアリズム」

2017.08.03 Vol.695

 軍事力を背景に、また拡大する経済力や国内市場を梃子に、中国は、アジア太平洋諸国への影響力を急速に増大させています。しかも、それが戦略的にはアジアを舞台にした米中のゼロ・サム・ゲームになっていることは注意を要します。

 近年、最も強烈な中国の圧力に晒されているのは韓国です。韓国政府が在韓米軍へのTHAAD配備を決断して以来、中国政府は配備先の土地を提供した民間企業(ロッテ)の中国国内での営業を妨害したり、中国人旅行客の韓国への渡航を制限したり、韓国製品のオンライン販売を規制したりするなど、陰に陽に圧力をかけました。結果、最近の韓国の世論調査で、中国は日本を抜いて不人気国の第一位に躍り出ました。しかし、5月9日の選挙では、突出した親中・親北の文在寅大統領が選出されました。朴槿恵前大統領の弾劾に端を発した選挙であったことを考慮しても、北朝鮮の直接的な脅威を前にして、なおこのような結果となったことは、今後の米韓、日韓関係に深刻な懸念を生じさせています。

 フィリピンでは、中国による脅威に対抗するため対米関係の強化に踏み出したアキノ前政権が同国への米軍プレゼンスを拡大すると、中国はスカボロウ礁への攻勢を強めました。ルソン島の西約230kmのEEZ内に位置する同礁をめぐっては、1990年代から中比間で紛争が絶えず、現在まで、中比の海上法執行機関および海軍艦船のにらみ合いが続いています。その間、中国政府はフィリピンからのバナナの輸入を停止するなど経済的な圧力をかけました。2016年7月、中国による「九段線」の主張を完璧に否定した国際仲裁裁判所の判断によって、フィリピンが全面的な勝利をもたらしたにもかかわらず、新たに政権に就いたドゥテルテ大統領は対中宥和姿勢に終始しています。このことは、地域の海洋安全保障にとって新たな懸念材料といえるでしょう。

 その他、ラオスやカンボディアはすでに中国への従属の姿勢を鮮明にしていますが、タイについても、2014年の軍事クーデターに米国が非難を強めた隙を突いて中国が軍事的関係の強化に乗り出し成功を収めつつあります。さらに、中国は豪州にもあからさまな圧力をかけ、常時行われてきた豪州海軍による南シナ海での哨戒活動をいきなり両国間の争点とし、かつ、米豪の共同パトロール実施にも警告を発したのです。

 もちろん、日本にも台湾にも陰に陽に圧力はかかっています。とくに、「一つの中国」原則を受け入れない蔡英文政権に対しては、近年、国際民間航空機関(ICAO)や世界保健機関(WHO)の総会からの締め出しを図るなど、露骨な圧力をかけています。このような人類共通の課題を扱う国際機関から特定の国や地域を排除すれば、世界全体でのシームレスな連携や対応ができなくなり、すべての人々の人命やその前提となる健康や生活環境に影響を与えます。この深刻な帰結を、我々は声を大にして国際社会に強く訴えるべきでしょう。(衆議院議員 長島昭久)

【長島昭久のリアリズム】変貌するアジア太平洋地域と日本の安全保障(その弐)

2017.06.26 Vol.693

 70年前に地政戦略家スパイクマンが予言した、中国による南シナ海での勢力拡張と日本ならびに西側諸国への圧迫。それを現代において実現する戦略を立てたのが、劉華清提督(鄧小平時代の中国共産党政治局常務委員であり海軍司令員)でした。そして、その将来展望は次のようなものでした。

 まず、2000年までに中国沿岸の防衛能力を高め、2010年までに第一列島線内側の制海権を確立。続く2020年までに複数の通常型空母艦隊を建造して第二列島線内部の制海権を確立。さらに2040年には複数の原子力空母艦隊を率いて、米海軍の西太平洋およびインド洋における制海権をそぎ落とし、やがて米国と対等な海軍国になる、と。

 これを、太平洋の対岸、すなわち米国から”anti-access, area denial, A2/AD”戦略と評したのが、米国戦略予算評価センターのアンドリュー・クレピノヴィッチ所長です。西太平洋における中国の宇宙から航空、洋上、海底、そしてサイバー空間にいたるクロス・ドメイン戦力の拡大の目的は、同地域への米軍の戦力投射を阻み(A2)、第一列島線の内側、やがては第二列島線の内側全域から米軍を排除する(AD)ことにあるのだと。

 この意味を正確に理解するには、1996年4月に勃発した台湾海峡危機を想起すべきです。当時台湾では二期目に臨む李登輝総統が初の総統民選を実施しようとしていました。台湾の独立志向の高揚を極度に警戒する北京政府は、台湾住民にプレッシャーをかけるために、台湾の北、西、南側海域で大規模なミサイル演習を繰り返しました。これに対し、クリントン米大統領(当時)は、二つの空母打撃群(艦艇約20隻、艦載機約150機)を同海域に派遣、「強制外交」(coercive diplomacy)でもって中国を牽制しました。今日の朝鮮半島のように一触即発の危機に直面しましたが、当時の米中の戦力差は歴然で、中国は撤退を余儀なくされたのです。

 しかし、仮に今日、同じ事案が発生したらどうなるか。トランプ政権は、96年当時のように躊躇なく空母打撃群を台湾海峡、より正確には第一列島線の内側へ投入することは出来ないでしょう。96年の屈辱を晴らすために血道を上げて取り組んだ大軍拡の結果、中国はこの20年間に、クロス・ドメインのA2/AD能力を保有するまでに強大化したのです。

 しかも、中国の究極の目標は、第一列島線と第二列島線の間の広大な海域における中国海空軍の行動の自由、すなわち海上・航空優勢を確保することに他なりません。この海域に、米本土を射程に収める長距離弾道ミサイル(SLBM)を搭載した原子力潜水艦を潜ませることができれば、A2/ADどころか、米国に対する核の報復能力を確立できることになります。

 このような中国の海洋戦略に対する米国の対抗策は未だ確立されたようには見えません。しかも、トランプ政権がどこまで効果的に中国の海洋進出に歯止めをかけられるのか予断を許しません。
(衆議院議員 長島昭久)

【長島昭久のリアリズム】長島昭久「独立宣言」−真の保守をめざして

2017.04.24 Vol.689

 私、長島昭久は、この度、一人の政治家として「独立」を宣言いたしました。

 民進党を離れる決意をした最大の理由は、保守政治家として譲れない一線を示すということであります。

 共産党との選挙共闘という党方針は、私にとり受け入れ難いものです。衆議院議員選挙は「政権選択の選挙」であり、国家観も、目指すべき社会像も著しく異なる共産党との選挙協力は、(中間選挙的な色彩の強い)参議院議員選挙での選挙協力とは本質的に異なります。

 特に、国家の基本である外交・安全保障政策において、私の「リアリズム」と共産党の路線とは重なることはありません。「安保法制廃案」という(その時点で既に非現実的な)一点で折り合いを付けようとしても、政権を担った途端に破綻することは火を見るより明らかでしょう。

 しかしそれ以上に、私にとって今回の行動の大義は、「真の保守をこの国に確立したい」という一点にあります。

 一昨年の安保法制や今後控えている憲法改正などで左右の衝突が繰り返され、極論や暴論のぶつかり合いが続くようでは、日本社会における保守とリベラルの分断・亀裂は(今日のアメリカのように)抜き差しならないところまで行くのではないかと私は深刻な危機感を抱いています。国家を二分する争点において、対立する双方の意見を調整し国会における熟議に反映させ、社会の分断、国家の亀裂を未然に防ぐ責任は、私たち国会議員にあります。

 にも拘らず、「党内ガバナンス」最優先で「アベ政治を許さない!」と叫び、行き詰まると、院外のデモ隊の中に飛び込んで、アジる、煽る、叫ぶ。これではかえって国民の中にある分断の萌芽をさらに拡大することになってしまいます。

「真の保守」とは、我が国の歴史と伝統を貫く「寛容の精神」を体現したものであり、国際社会でも通用するような歴史観や人権感覚を持つべきものだと私は考えます。リベラル側の人々には、権力に対するルサンチマン(怨恨)のようなものがあって、寛容さに欠ける言動がしばしば見られますし、一方の保守の側も昨今劣化が激しく、籠池さんのように、教育勅語を信奉していれば保守だといわんばかりの粗雑なキャラクターが際立っています。

「真の保守」は、この国に「秩序ある進歩」(私の尊敬する小泉信三の言葉)をもたらすことに力を注ぐべきと考えます。それは、「中庸」、即ち過剰に対する自制と不正に対する毅然とした姿勢によって、一方に偏ることなく常に調和を重んずる思想に通じるものがあります。そして中庸を保つためには、強い意志と高い理想がなければなりません。

 私は、ここに、特定の党派から独立した一人の保守政治家として、我が国を取り巻く内外の諸課題と真摯に向き合い、あるべき政治のかたちを創り上げるために、私の問題意識を共有してくださる同志の皆さんと共に、中庸を旨とした「真の保守」政治の確立という大義の実現を目指して行動を起こすものであります。 

(衆議院議員 長島昭久)

どうなるトランプ政権!? どうする日本の安全保障!【長島昭久のリアリズム】

2017.03.27 Vol.687

 トランプ政権がスタートして2か月が過ぎたが、依然として政策の方向性もその決定過程も不透明なまま、いや混沌とした状況にあると言った方がより正確だろう。もちろん、次々に打ち出される大統領令が示す方向性は明瞭だ。選挙戦中に公約したことに忠実なのだ。「まさか、本気でメキシコとの国境に壁なんか造るとは!」と熱烈な支持者たちも驚いたほど忠実なのだ。それはそれで結構なことかもしれないが、大型減税と大規模インフラ投資との財政的な整合性は? 本気で保護主義を貫こうとしているのか? 今さらアメリカ製造業の復活など夢物語ではないか? 結局、物価高騰のあおりを食うのはコアの支持層ではないのか? おまけに、国防費1割増などという予算要求が連邦議会を通るはずもない…。

 この間、閣僚15ポストのうち議会の承認を得て正式に就任したのは国務、国防長官はじめ6名と半数にも満たない。政権交代(とくに、民主党から共和党へ)で約4000人入れ替わるといわれるワシントンでは、その「回転ドア」の仕組み(政府からシンクタンク、そこから政府高官を経て再び民間へといった政策立案コミュニティにおける典型的なキャリア・パスを回転ドアに喩えて)が全く動かなくなっている。なぜなら、エスタブリッシュメントを辛辣に批判してきたトランプ陣営は、これまで米政府で政策立案を担ってきたプロフェッショナル達を徹底的に排除しているからだ。そのため、シンクタンクには就職口も肝心の政策情報も来なくなり、Think Tank(「知」の集団)がSink Tank(「沈む」集団)になったなどと揶揄されている。

 いずれにせよ、ワシントンは深刻な機能停止に陥っているように見える。その中で、ひとり気を吐いているのが国防総省(ペンタゴン)だ。現役時代から将兵の尊敬を集めてきたジェイムズ・マティス退役海兵隊大将を長官に迎え、150万将兵プラス50万人の背広組からなる200万組織は政権が変わろうとも結束を保ち微動だにしないというわけだ。世界中からブーイングの的となった大統領の「入国禁止令」に反発して900人を超える職員が非難文書に署名し、先月末高官が大量辞任した国務省とは大違いだ。(ちなみに各国に派遣される特命全権大使も、議会承認はおろか指名も殆どされていない。)

 そんな中で、北朝鮮の脅威は日に日に高まり、中国やロシアは着々とその影響圏を拡大しつつある。我が国の安全保障を全うするためには、米国の政権がどうのこうの言っている暇はなく、精神的にも態勢面でも「自立」を図る必要がある。その意味で、私は、我が国防衛の基本コンセプトである「専守防衛」を改めて見直す時期が来たと思っている。詳細は次回以降で考えてみたい。

(衆議院議員 長島昭久)

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