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わたしたちのすごさを世界中に見せつけてやる『てらさふ』朝倉かすみ

2014.03.16 Vol.613

 北海道の小さな町で運命的に出会った堂上弥子とニコこと鈴木笑顔瑠。中学生の2人はそれぞれ「ここではないどこか」に行くため、有名になることを決意する。手始めに、弥子が立てた計画は、ニコとして読書感想文で賞を取ること。弥子が読書感想文に選ばれた作品を読み、どう書けばいいかを綿密に分析、そして書き上げた作品をニコの名前で応募する。つまり2人は前に出る側と後ろに回る側に分かれ、“堂上にこる”という最強の女の子を作り上げたのだ。文学の才能を持つ美少女というキャラクターを武器に、次に2人が狙うのは史上最年少の芥川賞作家。しかし、そのころから運命の出会いだったはずの2人には、微妙な距離ができてくる。ゴーストライターによって有名になっていく自分に違和感を覚えるニコと、裏でニコを動かしている弥子。少女たちは「ここではないどこか」にたどり着けたのか!?

息子は自閉症、そして12歳の宇宙物理学者

2014.03.02 Vol.612

 アメリカに住む少年ジェイコブはアインシュタイン級のIQの持ち主。記憶力が抜群で、2週間で微積分を独学で習得。さらに9歳で大学に入学し宇宙物理学についての独自の理論に取り組み、ノーベル賞候補になると言われている。しかし、そんな天才児がその能力を開花させるまでには、大きな壁があったのだ。
 インディアナに住むクリンスティン・バーネットは結婚し、待望の子どもを授かる。しかし、長男として生まれてきたジェイコブは、2歳の時に自閉症の一種、アスペルガー症候群だと診断される。将来自分で靴紐を結べるようにはならないと言われたが、クリスティンはジェイコブが持つ才能を信じてみることにした。発達障害の専門家たちのアドバイスを無視し、徹底的にジェイコブのやりたいことをやらせる。なぜみんなは息子ができないことばかりに注目するの?なぜできることに目を向けてくれないの? 母は息子が数字に異常な興味を示すことを発見し、ある日天文学の講義に誘う。するとジェイコブは、宇宙の法則を見つけ出すことに喜びを感じるようになり、必要な知識をスポンジのようにどんどん吸収していく。そして学ぶ喜び、真理を導く喜び、それを分かち合う喜びみ目覚め、他者とのコミュニケーションが可能になっていった。大きな障害に立ち向かい、息子に普通の楽しい子ども時代を体験させたいと手探りで戦ってきた日々。自閉症の子どもを持つ母親に勇気を与える本であるとともに、すべての子どもには無限の能力が備わっていて、それを引き出すきっかけがあれば輝かしい可能性が開けるということを教えてくれる一冊。

これもみんな、愛。『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』コエヌマカズユキ

2014.02.16 Vol.611

 ジャーナリストとして活躍する一方、夜は新宿のゴールデン街のバー「月に吠える」のマスターとして働く著者による、いろいろな愛の物語について綴った本。新宿ゴールデン街で出会った人、またそんな人たちに紹介してもらった人、さらにはインターネットで知り合った人などに取材をして書き上げた6つの物語が紹介されている。
 ざっとあげると「車椅子の男と風俗嬢のカップル」「レズビアンの女」「お見合い結婚をした夫婦」「植物状態の妻を介護しつづける男」「ネット上でしか恋愛できない女」「ラブドール愛好家」。ヘビーなものから、ライトなものまでさまざまだ。赤裸々に語られるその物語は特別で異常な愛に映るかもしれない。しかし、著者の偏見を持たない目で彼らと対峙し、聞き出し、書き上げられた作品には、何か普遍的でシンプルな愛を感じることができる。見た目や職業、価値観、性的指向は人それぞれだ。
 この世に普通の人はいない。みんなどこかしら特殊だ。いや、特殊なことが普通なのだ。そう考えると、この本に登場する人たちの恋愛は彼らにとってごくごく普通の恋愛であると言える。ピュアすぎて、不器用すぎて、読んでいるこちらの胸が痛くなる話もある。しかし、読み終えたあと、共感できる気持ちが芽生えている事に気づく。

あなたのために、復讐してあげるから–。『美幸』鈴木おさむ

2014.02.02 Vol.610

 新聞社主催の書道コンテストで優勝し、メディアに取り上げられて目立ったことから、学校でいじめにあうようになった少女・美幸。
 彼女は、何も理解してくれない親を恨み、いじめに気がつかない鈍感な教師を憎み、誰ひとり味方になってくれないクラスメートを呪詛するようなひとり遊びにより、かろうじて学生時代をやり過ごしてきた。
 そんな彼女が就職した先は芸能事務所。そこで元役者で、今はマネジャーとして働いている雄星に出会う。彼もまた、上司から執拗ないじめにあっていた。そんな彼の境遇を自分と重ね合わせていくうちに、いつしか彼のことが気になりだし…。美幸が雄星に誓った無償の愛は、どんでもない行動を彼女に起こさせる。ただ、彼を救いたい、彼を傷つけるもの、悲しませるものを排除したい。その一心で彼女は恐ろしくも時に滑稽な復讐を企てていく。
 彼女がすべてを投げ出した無償の愛の行方は? そして、その先にある意外な結末は?! 復讐に取り憑かれた美幸は、恐ろしくもあり、悲しい。彼女の心に平穏が訪れる日が来るのだろうか。著者初めての恋愛小説は、本当の意味の無償の愛を感じさせてくれる切なすぎる物語だ。

捜査一課の凸凹コンビ、再び登場!

2014.01.19 Vol.609

『戦力外捜査官 姫デカ・海月千波』につづく戦力外シリーズの第二弾。
 警視庁捜査一課火災犯捜査二係所属の海月千波はキャリア組の警部。肩書きは切れ者の女性刑事のようだが実際は、「警察官としての現場の仕事の能力は “素人の平均よりさらにだいぶ下”」で、「本当に大卒かと疑わしくなる童顔の上に身長は明らかに百五十センチ未満」の見た目。加えてメガネっ子で、「方向音痴で天然ボケ、ついでに運動神経は皆無で車の運転も破滅的に下手」だというまさに戦力外の捜査員なのだ。そんなドジっ娘メガネ警部が、取り柄である超一流の推理能力とやる気だけで、お守り役の刑事・設楽恭介と事件に果敢に挑んでいく。
 あるカルト教団が“ハルマゲドン”をたくらんでいるという話を聞いた2人は、公安と手を組み独自に捜査を進めていくが、その中で設楽刑事の妹にカルト教団の魔の手が伸びていることがわかり…。
 本格警察小説でありながら脱力して笑えるキャラクター設定、スピード感のあるストーリー展開、時にホロリとさせる心情描写がぐいぐい読ませるエンターテインメント娯楽作。

BOOK 眠れないほど面白い!世界1100万人が熱狂!

2014.01.05 Vol.608

『ダ・ヴィンチ・コード』のダン・ブラウンの最新作が登場!全世界シリーズ累計1億7000万部を突破したラングドン・シリーズの第4弾はイタリア、そしてアジアが舞台。病院で目が覚めたラングドンは、そこがイタリアのフィレンツェであることに気づく。しかし、そこにいる理由、頭部に負った傷の理由など、丸2日間の記憶が失われていた。その時、病院内に武装した襲撃者が押し入り、担当の医師を銃殺。自分が狙われていることを悟ったラングドンは、美人の女性医師シエナの手引きにより、病院を脱出する。どこまでも追ってくる暗殺者から逃げながら、ある謎を解くことが、その状況を解決してくれるのではと考えた。そしてシエナとともに、イタリアの名画や歴史的建造物、そしてダンテの『神曲』に隠された暗号をもとに、少しずつ真実に近づいて行くのだが…。これまでの謎解きに、地球規模の恐ろしい大問題が絡み合い、物語は意外な展開を見せる。ラングドンとシエナは、世界滅亡のカウントダウンを阻止することができるのか!?

BOOK 早世から一年

2013.12.22 Vol.607

 不世出の役者といわれ、歌舞伎だけではなく、舞台や映画などのメディアで活躍していた中村勘三郎が逝って一年。長年親交のあった作家と、役者勘三郎と中村屋を支えてきた妻による本が出版された。『勘三郎伝説』は、父親である先代勘三郎に密着した著作がある著者だけに、歌舞伎への造詣も深く、その作品の描写とともに、役者・中村勘三郎の人生を見ることができる。また、プライベートで交わされた会話やエピソードには人間・中村勘三郎の魅力があふれ、著者が勘三郎を役者として、そして人間として深く愛していたこと、そしてそんな彼の不在に深い喪失感を抱き、いまだに受け入れられない気持ちを持っていることが痛いほど伝わってくる。『中村勘三郎 最後の131日』は、小学6年の時に「勘九郎お兄ちゃまのお嫁さんになりたい」と願った妻が、その出会いから闘病の日々を振り返る。いるだけでその場を明るくする勘三郎が実はうつ病に悩まされていたことなど、今だから明かせる真実に驚かされるとともに、本人と家族が一緒になって乗り越えてきたことに感謝の気持ちさえわき起こる。そんな家族がいて、私たちは彼の素晴らしい芸を楽しむことができていたのだと。2冊に共通することは、勘三郎がいかに愛にあふれたチャーミングな人間だったかということ。勘三郎は若くして亡くなることで、天才の名を不動のものにしたかも知れない。でも彼を知る人は思うだろう。そんなものよりも、ただもっと生きて、ワクワクするような芝居をもっともっと見せてほしかったと。歌舞伎ファンでなくても、勘三郎の人間力に胸を打たれる作品だ。

BOOK この落語家を聴け! この落語家は聴くな!! とまでは言わないけど……

2013.12.08 Vol.606

 芸歴49年の三遊亭円丈が、落語家の視点で落語と落語家を論評した本を出版。前口上として、その意味をこう記す。「一落語家から見て、落語評論家という存在はどうもウサン臭くて信用できない。というのも、野球評論家は元野球選手だが、落語評論家は元素人なんだ。これが今ひとつ、プロの落語家から見ると説得力がない—」。確かに、言っていることは分かるが、現役の落語家が、同じ高座に上がる同業者のことを、批評し採点するというのは、前代未聞だろう。論評されているのは、伝説の名人から大長老、大御所、中堅、若手、上方落語家まで53人。もちろん、そこまでの覚悟なので、ほめてばかりではなく、かなり厳しい採点をしている人もいる。しかし読んでいて不快にならないのは結局のところ、著者の中にある落語へ対する愛が見えるから。自分の中にある葛藤や弱さも吐露し、身を削って書いているのが伝わってくるのだ。各芸人のオススメの演目も紹介しているので、気になる落語家がいれば、その演目を聞いてみよう。どんなにボロクソに書いていても、楽しめる。そこには平等で真摯な視線があるから。

とろけるような舌のたび

2013.11.24 Vol.605

 イギリス人のトラベルジャーナリストであり、フードジャーナリストによる日本全国食紀行。ただの食いしん坊と謙遜するが、著者はパリの有名料理学校ル・コルドン・ブルーにおける1年間の修行とミシュラン三ツ星レストラン、ジョエル・ロブションの“ラテリエ”での経験をつづった“Sacre Cordon Bleu”がBBCとTime Outで週刊ベストセラーになったほどの食通だ。そんな彼が家族4人で北海道から沖縄まで日本全国を3カ月で周り、できるだけ多くの日本料理を食べる旅に出たのだ。東京では新宿の思い出横丁から、高級な天ぷら店、そして相撲部屋のちゃんこから会員でなければ入れない銀座の割烹(会員の服部幸應に招待された)まで、日本人でもなかなか体験できないお店に行き、北海道ではカニやラーメン、大阪ではお好み焼きなど、まさに日本を食べ尽くす。その食べっぷりと飽くなき追求心には驚かされるが、この本は食のことだけではなく、ひとつのイギリス人家族の日本紀行になっているところも楽しい。間違った認識や思い込み、ところどころに散りばめられたシニカルな表現はご愛嬌として、食べることが大好きな人は、普段何も考えずに食べている日本食というものを、改めて考えるきっかけとなるのでは。

BOOK 偽りのない友情が、男たちを突き動かす

2013.11.10 Vol.604

 デビュー作『慟哭』がベストセラーになり、一躍人気作家となった貫井徳郎が、作家デビュー20周年記念作品『北天の馬たち』を刊行。新たな代表作となるサスペンスミステリーだ。

 横浜の馬車道近くで母親とともに喫茶店「ペガサス」を営んでいる毅志。その2階に皆藤と山南という男が探偵事務所を開いた。ビルの管理と喫茶店のマスターとして狭い世界で生きる毅志にとって、2人は広い世界でいろいろな経験をしてきた自由人に見え、そんな2人にあこがれを抱くようになる。彼らに信頼されることで自分の人生を肯定したい。そんな気持ちから、探偵の仕事を手伝わせてくれるよう頼んだのだった。

 2人の仕事を手伝うようになってしばらくしてから、毅志は奇妙な仕事を頼まれた。そこから彼らに対して、言いようのない不信感と何かを隠されている寂しさが芽ばえてくる。そんな彼の思いとは裏腹に2人には、胸に秘めた思いがあった。ちりばめられた伏線が、ラストの衝撃の結末につながった時、彼らの友情と勇気と行動に胸が熱くなる。

BOOK 実現不可能な勝負を科学でシミュレーション

2013.10.26 Vol.603

 怪獣映画やSFマンガなどの現象を、現代科学で再現するとどうなるかを現実の物理法則にあてはめて検証する『空想科学読本』。今回は『空想科学読本12』と『同13』の読者ハガキで募集した「読者が気になるどっちがすごい!?」質問に答える形式でさまざまなものを対決。「ゴジラとガメラの大決戦! 怪獣王はどっちだ!?」「斬れないものはない!? ゾロと五エ門の真剣スゴ腕比べ!」「ケンシロウと範馬勇次郎、人類最強はどっちだ!?」など、誰もが一度は見てみたい最強対決が実現した。さらに、「『こち亀』中川家と『ケロロ』西澤家の富豪勝負。どっちがお金持ち?」といった素朴だが気になる疑問、「大空翼と江戸川コナン、キック力のすごさを比較する!」という、勝負は決まっているのでは?と思われるが、実は…といった質問までさまざま。さらに、改めて聞かれると答えに困ってしまう「犬と猿が戦ったら、どっちが勝つ?」など、昔から伝わることわざの検証も。最近のアニメからウルトラマンと仮面ライダーの元祖ヒーローまで、どんな年代でも楽しめる対決が満載。勝ち負けを予想して読むのも楽しい。

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